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【特集】映画『エヴェレスト 神々の山嶺』公開記念~夢枕獏先生特集~

【特集】映画『エヴェレスト 神々の山嶺』公開記念~夢枕獏先生特集~

2016年2月29日

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※画像はFASIONPRESSより

3月12日に映画『エヴェレスト 神々の山嶺』が公開される。
原作者は『陰陽師』や『餓狼伝』など数々のベストセラー作品を生み出してきた夢枕獏だ。

この映画は、これまで国内外から映画化オファーが殺到しながらも、そのスケールの壮大さから成立に至らず、まさに“映像化不可能な小説No.1”と言われ続けてきた世界的大ベストセラー作品。撮影のために実際に世界最高峰の地エヴェレストに登頂したという、日本映画史上初の試みが話題の超大作だ。

映画公開を記念して、映画の紹介や原作の『神々の山嶺』のレビュー、夢枕先生のこれまでの名作の数々を紹介する。

<映画『エヴェレスト 神々の山嶺』の紹介>

二人の滑落死者を出したエヴェレスト登山隊のメンバーであるカメラマン深町誠は、失意の中、偶然立ち寄った骨董屋で年代物のカメラ見つける。そのカメラがエヴェレスト初登頂に挑みながらも行方不明になったイギリスの登山家ジョージ・マロリーの遺品であることを知る。
カメラの謎を追いかけるうちに辿り着いたのは、数年前に姿を消した孤高の天才クライマー、羽生丈二だった。
目標を見失いかけていた深町だったが、羽生がエヴェレスト最難関ルートである南西壁の冬季単独登頂を計画していることを知り、世界最高峰の“神々の領域”へと再び足を踏み入れる。
標高8848メートルの壮絶な自然との命がけの闘いの先に待っている結末は?

野心家のカメラマン深町誠には、日本を代表する役者となった岡田准一。深町と対する羽生丈二に主演・助演問わず強烈な印象を残す阿部寛。二人の男に運命を翻弄される岸涼子に、その卓越した演技力で映画・ドラマとオファーが絶えない尾野真千子と豪華キャストが集結。そして脇は、佐々木蔵之介、ピエール瀧、風間俊介、甲本雅裕などの演技派俳優陣、さらに米アカデミー賞(R)外国語映画賞ノミネート作品『キャラバン』(00)で演技初挑戦にして主演を務め絶賛された、シェルパのテインレィ・ロンドゥップなど国際色豊かなメンバーが固める。

映画『エヴェレスト 神々の山嶺』公式サイト:http://everest-movie.jp/

A1bc2wjSwhL._SL1500_<『神々の山嶺』 レビュー>

1993年6月、登山家でカメラマンの深町誠はネパールのカトマンドゥにいた。2ヶ月前の4月に仲間たちと共にエベレスト登頂にチャレンジするも、登頂は断念、その上、滑落による2名の死亡者を出して、下山する事になってしまったのだ。
他の写真の撮影があるため、帰国する仲間を見送った深町だったが、あまり仕事に手がつかず、あてどなくカトマンドゥを歩いていた。そんな中、偶然訪れた中古登山用具店で、とんでもないものを発見する。1924年にエベレストで行方がわからなくなったイギリスの登山家、G・マロリーが持っていたカメラと同型のものが店頭に並んでいた。もし、本人のもので登頂時の写真が見つかれば、「マロリーは登頂前に死んだのか、それとも下山中に死んだのか」という長年議論になっていた、エベレスト人類初登頂の記録が塗り替えられる大発見だ。興奮した深町は真贋を確かめるためにカメラを購入したのだが…。
多彩な作風で読者を魅了する夢枕漠が壮大なスケールで描く、山に命を懸けた男たちの生きざまに息を呑む山岳叙事詩。

電子書籍ランキング.com 編集部T

『神々の山嶺』みんなの感想

◆続きが気になり一気に読み切った

最初はカメラを巡るミステリーに始まり、伝説の登山家を追って展開するサスペンス、そしてエベレストに挑む男たちのドキュメントと様々な方面にストーリーが移り変わり、色々な要素を内包した小説。それでも一本のストーリーとして完成度が高くスッと入ってくるので、一気に読み切ってしまいました。テレビなどで観るエベレストの映像から、想像できないような過酷な世界が描かれていて、クライマックスでは思わず、頑張れ!と思いながら読んでいました。

◆細かい山岳描写に思わず唸る

物語の途中に記載されている山岳関係の歴史や登場人物たちの話など、フィクションの中に史実をうまく入れて、キャラクターにリアリティを持たせるには、膨大な調査が必要だったと思われる。また、登山中における情景や登攀者の精神状態の描写など、こちらが感情移入してしまうような没入感があって、物語にどんどん引き込まれた。特に、ネパールのカトマンドゥでのシーンと、エベレストでの極限状態の描写登攀シーンを比べ、おなじネパールの中で出来事かと思うと、物語である事を忘れて自然の脅威に唸ってしまった。

 

<著者紹介>

suigyotei_160P夢枕獏(ゆめまくらばく)
1951(昭和26)年、神奈川県生れ。1977年、『カエルの死』でデビュー。1984年に発表した『魔獣狩り 淫楽編』とそれに続くサイコダイバーシリーズで、伝奇小説の新たな地平を切り開く。1989(平成元)年『上弦の月を喰べる獅子』で日本SF大賞を、1998年『神々の山嶺』で柴田錬三郎賞を受賞。2011年から2012年にかけて、『大江戸釣客伝』で、泉鏡花文学賞、舟橋聖一文学賞、吉川英治文学賞を受賞する。「キマイラ」「餓狼伝」「陰陽師」「闇狩り師」など、多くの人気シリーズを持つ。

<過去の名作セレクション>

ここでは、『神々の山嶺』以外にも数ある夢枕獏先生の作品から5シリーズ7作品を紹介する。映画化、漫画化された作品だけでなく、現在まで長く連載されている作品もある。どれもぜひ手にとってみたい名作ばかりだ。

「陰陽師」シリーズ
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2001年に滝田洋二郎監督、野村萬斎主演で映画化され大ヒットした『陰陽師』の原作。他にも漫画化、ドラマ化、舞台化など幅広く起用されている。単行本は1988年に第一作目の『陰陽師』が刊行され、その後、現在まで累計15冊を刊行しているシリーズ作。

主人公の安倍晴明は、平安中期の天才「陰陽師」。まだ闇が闇として残り、夜になれば人も、鬼も、物の怪も、同じ都の暗がりに、息をひそめて住んでいた時代。安倍晴明は従四位下、大内裏の陰陽寮に属する陰陽師。死霊や生霊、鬼など、普通の人間には見えない、妖しのものどもを相手に、この世ならぬ不可思議な難事件をあざやかに解決していく。親友の源博雅は、霊感はまるでないが、刀では敵なしの強さ。力を合わせて物の怪に挑んでいく。

■『男の貌 夢枕獏短編アンソロジー

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<内容>
『男の貌 夢枕獏短編アンソロジー』は、作家夢枕獏が1980年代に発表した多数の短編作品から男の激しい情念を描いたものをセレクトしたものである。
本書収録作の背景にあるのは、プロレス、将棋、釣り、格闘技の世界。それらの世界の王道を歩めなかった男たちはどのような顔をして道を歩くのか。様々な感情を押し隠した男の横顔を描く。
「真剣勝負・シュート」と「拳屋・ナックルビジネス」は、『仕事師たちの哀歌』からの二篇で、プロレスの世界を生きる男たちを描いた作品で、80年代のプロレスを想起させる。「闇烏」と「夕映」は、連作短篇集『鮎師』からの二篇で、「釣り」、しかもマニアックな毛鉤による鮎釣りをテーマにしている。自他共に許す釣り好きの作者ならでは「釣り小説」である。「夕映」と「浮熊」は、将棋そのものを物語の芯に据えた連作短篇集『風果つる街』に収録された作品。将棋が日常的な「勝負ごと」であった時代に、将棋に取り憑かれた人間の闘いと流浪の様を描き出している。「私怨」は、『餓狼伝Ⅰ』第二章であり、餓えた狼・丹波文七が、素手で闘う意味がアイロニーと共に隠され、丹波のライバルである姫川が、欲望に忠実でいながらストイックという個性を遺憾なく発揮している。

「大帝の剣」シリーズ

大帝の剣<内容>
2007年に堤幸彦監督、阿部寛主演で映画化された『大帝の剣』の原作。映画の脚本を担当した天沢彰による再ノベライズ化や、渡海・横山仁による漫画化もされている。単行本は1986年に『大帝の剣 巻ノ壱 万源九郎 天魔降臨編』が刊行され、『大帝の剣 巻ノ伍 万源九郎 飛騨大乱編』で中断していたが、映画化されるにあたり〈幻魔落涙編〉と〈聖魔地獄編〉が刊行され完結した。

関ヶ原の爪痕残る徳川の治世。身の丈およそ2メートル、岩を削りとったような剛健な肉体に異形の大剣を背負い、よろずうけおい人として旅をする男の名は万源九郎。金緑色の強烈な光が天空を疾り抜けた晩、源九郎は山中で赤い簪を拾うが、その簪の持ち主である娘・舞を捜す忍びたちに命をつけ狙われることになった。剣戟に忍術妖術入り乱れ、歴史を揺るがす壮大な物語が幕を開ける。唯一無二の時代伝奇小説。

「キマイラ」シリーズ

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1982年に連載が開始され、現在も続いている著者の代表作ともいえる作品。伝奇、格闘技、幻想、冒険、恋愛など、今日の人気作家を構成するあらゆる要素が入った、著者自身が「生涯小説」と呼ぶ力作。1982年に朝日ソラノマから文庫本として刊行され、その後、出版社の合併などにより朝日新聞出版から新書判として刊行されている。新書判では11冊。

小田原のとある高校の春。その美しさゆえ、新入生・大鳳吼はたびたび鉄拳にさらされるが、それは恐ろしい目覚めの序章に過ぎなかった。それは、学園を支配する上級生・久鬼麗一も同じ宿命を負っていたからである。大鳳は自らの意思で丹沢山中に姿を消し、久鬼は、何者かの手によって、箱根の山荘に監禁の身となる。キマイラとは何か?著者入魂の「生涯小説」の幕が上がる。

「餓狼伝」シリーズ

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格闘小説で漫画化、映画化だけでなくゲーム化されている。2006年以降は『新・餓狼伝』として現在も連載されている。『餓狼伝』と『新・餓狼伝』にはストーリーの中断はなく、直接の続編となっている。「現代の宮本武蔵、姿三四郎を書く」のコンセプトの元、様々な格闘家の闘いを描き、同時に強さとは何か?を描くストーリーである。1985年に双葉社から新書で刊行され、シリーズで15冊が出ている。

若手プロレスラー梶原年雄に敗れ、自らの肉体を鍛え続ける丹波文七。竹宮流・泉宗一郎の野試合は壮絶をきわめた。文七の名は、立会人・姫川勉の口から北辰空手総帥・松尾象山の耳にも届く。梶原を目指し、小犬のようにつきまとう少年・久保涼二をつれ、文七は東京へ。

「サイコダイバー」シリーズ

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<内容>
1984年に単行本が刊行され、2010年に最終巻が刊行された。シリーズ全体で25巻の大作。作品タイトルのほとんどが『魔獣狩り』の名前を冠するので、別名『魔獣狩りシリーズ』とも呼ばれる。著者自ら、「この物語は面白い」と熱く語る代表作にして自信作。著者の得意分野である伝奇小説・格闘ものの要素が取り込まれている。何度も漫画化やアニメ化がなされている。

精神(サイコ)ダイバーとは人間の頭脳に潜入し,その秘密を探り出す特殊能力を持つ超戦士。文成仙吉、美空、九門鳳介ら精神ダイバーが空海の秘宝を巡り、謎の獣人と巨大な陰謀に立ち向かう。

 

■『大江戸釣客伝

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2011年から2012年にかけて泉鏡花文学賞、舟橋聖一文学賞、吉川英治文学賞を受賞した。2011年に上下巻で刊行された。自らの半世紀を超す釣り経験をもとに、夢枕獏が江戸時代の釣り指南書が生まれた背景を描いた時代小説。

時は元禄。旗本、津軽采女は小普請組という閑職がゆえ、釣り三昧の日々を送る。やがて、義父・吉良上野介の計らいで「生類憐れみの令」を発布した、将軍綱吉に仕える。同じ頃、絵師朝湖と俳人基角は江戸湾で土左衛門を釣り上げた。果たしてその正体は? 元禄という時代を釣りの泥沼から覗く。

■『上弦の月を喰べる獅子

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1989年の第10回日本SF大賞、1990年の第21回星雲賞日本長編賞を受賞した作品。1986年から1988年に連載され、1989年に単行本で刊行された。著者が仏教の宇宙観をもとに進化と宇宙の謎を解き明かした空前絶後の物語。

この世に存在するあらゆる螺旋を集める「螺旋蒐集家」である三島草平は、ある日、現実ではありえない螺旋の階段を目にし、それを上りはじめる。また、若き日の宮沢賢治は、北上高地で巨大なオウムガイの化石を発見する。それぞれの螺旋にひきこまれた2人は、時間を超えて融合してアシュヴィンとなり、異世界へ来てしまう。

 

書評『神々の山嶺』
書評『男の貌 夢枕獏短編アンソロジー』