こっけいで愛すべき登場人物が魅力の川端康成文学賞受賞作品
ダメ男を書かせたら右に出るものはいない小説家、戌井昭人。彼の新しい作品もまた、私たちの期待を裏切らないダメ男が登場します。ダメながらも怠け者というわけではなく裏表のなさそうなところも魅力的です。ちなみに本作は第40回川端康成文学賞受賞した作品になります。
「すっぽん心中」ではそんなだめ男、田野と偶然出会ったホームレス同然の女、モモちゃんは行き当たりばったりで霞ヶ浦まですっぽんを捕りにいきます。そんなところに行ってもなにも変わらないよ、と思いながら読者は独特の世界に取り込まれてしまうのが見どころです。結局はかばかしい結果にはならず、その場しのぎの関係に見えるふたりですが、なぜだかイヤな後味ではなく、不思議に心温まるものを感じてしまいました。
それは、田野もモモちゃんも相手を利用してやろうとか、裏をかいてやろうとかそんなことを考えてはおらず、目の前のなにかにとりあえず熱中しているからだと思います。私たちもそれぞれどうしようもない部分を持っていることを気づいていますが、普段はかくしてなんとか日常生活を穏便に暮らそうとしているはずです。しかしここに出てくるふたりがあまりに清々しく思えてくるのかもしれません。滑稽だけど愛すべき人間っぽい、そんなところにリアリティを感じる小説です。