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ふたりの証拠

アゴタ・クリストフ(著)/堀茂樹 (訳)のふたりの証拠(電子書籍)

ふたりの証拠 【電子書籍】

著者 ページ数 クチコミ評判
アゴタ・クリストフ(著)/堀茂樹 (訳) 302ページ ★★★★☆

衝撃的なラストで謎は深まるばかり

『ふたりの証拠』は『アゴタ・クリストフ』の処女小説『悪童日記』の続編にあたります。本作は「ぼくら」の半身が国境を越え、一方は「おばあちゃんの家」に帰ってきた前作最終話の直後の物語です。本作はこれまで読んできた内容はなんだったのかと思える衝撃のエピローグが待ち構えています。

前作『悪童日記』レビューはこちら

本作『ふたりの証拠』は、前作のような独創性のある作文(日記)でストーリは進まずすっかり普通の小説形式となっています。そこに不満がなければウソになりますが、いわゆる小説形式であっても楽しめる作品であることは間違いありません。前作『悪童日記』の登場人物たちもそうでしたが今回の「ふたりの証拠」の登場人物も一癖も二癖もあります。何かの映画で「全員悪人」というキャッチコピーがありましたが、本作は「全員変人」とでもいいましょうか、まともな人間はほとんどいないといった様相で退廃的です。しかし前作の「ぼくら」のような神秘性は存在せず非常に人間臭い登場人物ばかりです。

また前作『悪童日記』では徹底して登場人物に名前がありませんでしたが、今作『ふたりの証拠』では「ぼくら」の一人である主人公にはリュカ(LUCAS)という名前を与えられています。もうひとりの「ぼくら」の半身クラウス(CLAUS)と別れたリュカは体調を崩してしまいます。そんな折かつてリュカ(LUCAS)とクラウス(CLAUS)の「ぼくら」で作った川に架けた橋に女性ヤスミーヌがおり乳児マティアスを川に沈めようとしています。このヤスミーヌと乳児マティアスは行く当てがなくリュカは、おばあちゃんの家に住まわせます。

リュカはこのヤスミーヌの子マティアスに対して異常な執着を示します。マティアスに対してリュカは「己」もしくは、かつての「ぼくら」の半身である「クラウス」を重ね合わせているように感じられます。マティアスは不具の子供で己に強いコンプレックスを持っており、やがて自ら命を絶ってしまいますが、このマティアスの死により、リュカは精神を病んでしまいます。本作「ふたりの証拠」はリュカとマティアスの関係が主軸となって物語が進みますが、物語の終盤になり「ぼくら」の国境を越えた半身であるクラウスが祖国へと舞い戻ります。それはリュカが姿をくらましてから20年後の話です。

リュカは一人であり、半身のクラウスなどいないと思っていた理解者のペテールなどは未だクラウスの姿を見ても半信半疑なのですが最後の最後にきてこの物語はさらに謎が深まってしまいます。

クラウスは国境を超えた地から祖国の「おばあちゃんの家がある地」に舞い戻りますがビザの滞在期限を過ぎても祖国に滞在していることがきっかけとなり、強制送還などの措置がとられることになります。しかし、その滞在目的であるリュカなる人物の実在性がないという報告書が唐突に我々読者に提示されるのです。そればかりかクラウスの実在性も定かではなく何者なのか不明。ならばこの作品はなんなんのだという謎に包まれたまま物語は締めくくられます。おばあちゃんの存在は認められるものの「ぼくら」の存在は定かではありません。

このクラウスの存在の有無に対しては作中でも示唆はされてきました。そもそもリュカが一人になって、もう一人の存在クラウスが欠けても誰も何も言わず、まわりの人間も不思議に思わない時点で、クラウスの存在は危ぶまれていました。しかしそれであれば二重人格や空想で説明もつくのですが、作中にてリュカがペテールに証明書の発行を依頼し証明書が発行される話をわざわざ書いているのにもかかわらず、リュカの存在が分からないというのがさらに謎を深めます。

本作はシリーズ第二弾なので第三段の『第三の嘘』でどのようにまとめるかアゴタ・クリストフの腕の見せ所だと思って楽しみに次作を読もうと思います。



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