まほろ駅前多田便利軒は三浦しをん作の第135回直木賞受賞作品
神奈川と東京の境にあるというまほろ市で多田便利軒という便利屋を営む多田啓介と、偶然再会し彼の元へ転がり込んできた高校時代の同級生、行天(ぎょうてん)春彦は、お互い三十代でバツイチの独身。
その2人が生活を共にしながら、多田便利軒に舞い込む怪しい依頼を受け、一癖も二癖もある人々と関わりあっていく物語です。「まほろ駅前多田便利軒」の続編として「まほろ駅前番外地」、「まほろ駅前狂想曲」が出版されています。過去の傷から自己嫌悪に陥りがちで人と深く関わらないようにしつつも面倒見がよい多田と、飄々としてつかみどころがなく、社会から浮きまくりで先が読めない危うさを漂わせる行天の軽妙なやりとりやコンビネーションが面白く、2人が面倒だったり胡散臭かったりする依頼を文句を言いながらも受ける愉快さや、2人の絶妙な距離感、それぞれが抱えた古傷を見つめ、乗り越えていく切なさが描かれています。
まほろ駅前多田便利軒を読むと、心にささったままのとげや痛みがあっても、幸せを求めて一歩踏み出してもいいんだよというメッセージを感じます。舞台となるまほろ市は著者である三浦しおんさん在住の町田市がモデルになっており、住宅街、歓楽街、商店街など何でもある、雑多で魅力的な街として描かれています。