幕末から維新へかけての流浪人の物語
「るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-」は、和月伸宏の作品で1994年から1999年まで週刊少年ジャンプで連載された人気漫画です。また1996年にはフジテレビ系列でTVアニメ化もされました。記憶に新しいところであれば2012年に「佐藤健」主演で実写映画化もされており、2014年8月1日より実写映画の2部の公開も始まります。
るろうに剣心は、江戸末期の争乱が終わり、維新が成った明治時代初期の日本を舞台に、古流剣術飛天御剣流を操る剣客、緋村剣心の物語です。剣心は全国を旅する流浪人として、神谷活心流道場の師範代である神谷薫と出会います。このとき薫は、神谷活心流を名乗って辻斬り行為をおこなう「人斬り抜刀斎」なる人物を探していました。
剣心はこの件に関心を持ち、人斬り抜刀斎なる人物と対峙すると、あっという間に倒してしまいます。何を隠そう、剣心こそがかつては長州派維新志士で、幕末最強とまで謳われた伝説の剣客である人斬り抜刀斎本人だったのです。この剣心を中心に、明治維新に関わる事件や人物と協力し敵対し、剣心が「どう生きるか」というところがこの作品の大きな見どころです。
この作品のストーリーは、オリジナルのものですが、明治時代に起きた紀尾井坂の変や新選組など、史実や実在人物は実名で登場します。舞台となる明治時代の時代考証や表現も歴史資料に沿っていてかなり、作品の深みを増すことにつながっています。
一番の盛り上がりどころといえば、剣心たちと「志々雄真実」とその一派「十本刀」との戦いを描いた京都編で間違いありません。るろうに剣心の良さを知りたければ、このシリーズは絶対読んでほしいです。ただ戦うだけであれば少年ジャンプの王道のバトル物としての位置づけになりますが、見どころは剣心たちの勝利は力によるものだけではない、という点でしょうか。表面上は剣術で勝負が決していますが、それ以前に「内面」で勝負が決しているのです。
十本刀の戦いでもそれが見られます。「破軍(乙)の不二」は、自らを武人として勝負してくれた主人公剣心の師匠「比古清十郎」との出会い自体に歓喜した瞬間、戦闘兵器としての存在意義を失います。「明王の安慈」は自らの行為が愛する子どもたちの望んだものではないと左之助によって悟った瞬間敗れます。「心眼の宇水」は志々雄への屈折した心情を偽っていた自分をつきつけられて死んでゆきます。「天剣の宗次郎」も、自らが確固として信じてきた弱肉強食の世の理を打ち砕かれます。
そして志々雄真自身も、直接に剣心の剣に斃されるのではなく、自らが発する熱で焼かれます。「ボスキャラ」は主人公が倒すカタルシスを読者から奪うという、非常に危険な賭けをしてまで作者は内面の勝利を描きたかったのです。とはいえ本格バトルもしっかりとあり、実在する新撰組の斉藤一の戦いなどは、心熱くさせるに十分な激闘を我々に披露してくれます。るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-は、多くの人を楽しませてくれる名作といって差し支えありません。