首相殺しの犯人というレッテルを貼られた主人公の逃亡劇
ストーリーテリングの評価が高い伊坂幸太郎が見事な手腕で読者を最後まで楽しませてくれます。荒唐無稽なテーマを軽妙洒脱に書き下ろして読者を惹きつけるのが本当に上手で、伊坂作品に共通することですが、登場人物の一人一人が実に魅力的で躍動感を感じさせます。この作品の登場人物で一番惹かれたのは主人公の父親です。脇役ではありますが主人公が全国指名手配され、実家にマスコミが殺到した時の対応は、本書を読みながら「あんな父親になりたい」と思わずおやじに憧れを持ってしまうほどの力量とパワーです。登場人物一人一人から息吹が感じられます。
もっともこの作品のラストには賛否両論あるようですが、読後感ならぬ読中感の満足度が極めて高いのでラストはさほど重要でないかな、とすら思ってしまいます。
ちなみにタイトルになっている「ゴールンデン・スランバー」はビートルズの名曲ですが、ビートルズのメンバーが様々な理由からバラバラになっている時期にポール・マッカートニーがなんとかバンドを再びまとめようと、故郷へ続く道を思い出しながら作った曲といわれています。そんな背景を登場人物達の関係性にも色濃く反映させています。
また、映画も良作で特にキャスティングが素晴らしく原作の魅力をより一層引き立てています。個人的には映 画の余韻に浸りながら、エンドロールで流れる斎藤和義の歌う「退屈な朝食幸福な夕食」が何ともいえない甘美さとアンニュイ感を漂わせ たまりません。※余談ですがこの曲を聞いて伊坂幸太郎は会社員を辞めて作家になったそうです。