誰がために戦う 未完の傑作サイボーグ009
石ノ森章太郎が長年描き続けた「サイボーグ009」は、実に多くの雑誌で連載された作品でもあります。1964年「週刊少年キング」で連載が開始され、その後第二期は「週刊少年マガジン」で連載。さらに第三期以降は秋田書店の「冒険王」や虫プロ商事の「COM」、さらには不定期掲載ながらも「週刊少女コミック」でも連載されました。さらにその後も誌面を変え「月間マンガ少年」(朝日ソノラマ)で数年連載し、今度は「週刊少年サンデー」で連載します。その間「少年ビッグコミック」にも不定期掲載されたという連載誌の変遷だけ明記してもすでに伝説級の作品です。
この作品サイボーグ009の見どころは、人間でありながら人工の部品を生身の体に組み込まれ機械化人間とでもいうべきサイボーグになってしまった年齢も・性別・国籍・人種も異なる若者たちの苦悩と絆、そして何よりも強い反戦への想いにあります。
なぜならサイボーグナンバー001から009というのは、武器商人の集合体であるブラック・ゴーストによって、人間兵器としてサイボーグ化された者たちだからなのです。自分たちが人間兵器化して売り出したい能力を持たせるのに適正ありと判断した被験者を、わざと事故に合わせて、自分たちの手で強制的にサイボーグ手術を行うあたりは、石ノ森章太郎のもう一つの代表作である「仮面ライダー」にも通じるものがあります。
人間でありながら心の無い戦争の道具にはなりたくないと、9人の仲間とともに組織に反旗をひるがえしたサイボーグ戦士たちは、ブラック・ゴーストの操るままに世界各地で起きる戦乱に対し平和を守るための戦いに身を投じます。
長い戦いの末、組織を壊滅。ようやく平和を手に入れたと思った島村ジョー等サイボーグ戦士たちの耳に、ブラック・ゴーストの最期の言葉が突き刺さります。「我々は消滅しても、人間の心に欲がある限り、また新たな我々は生れ出るだろう」と。その言葉に、平和への想いを強く胸に刻むサイボーグ戦士たち。これは、現在にもつながる物語なのです
このサイボーグ009は残念なことに最終シリーズ「Conclusion God’s War」にて完結する予定であったが、執筆前に作者の石ノ森章太郎が亡くなられたため、未完のまま完結してしまいました。その後ご子息が遺志を継ぎ完結篇が執筆されました。