六田登先生 書評
マッカーシーの自然描写が圧倒的に美しいのは、そこに善悪の入り込む余地がないからだろう。
存在という営みのみに作者が向かう眼差しは、人物描写でも同等であり、だから「チャイルド・オブ・ゴッド」の殺人者も野生動物のように美しい。
いや、それだけでは僕は小説を読まない。
僕には善もあり悪もある。喜怒哀楽の感情や、社会という構造の中で、のた打ち回っている。
そして僕は必ず発見する。
人が継ぐべき希望の灯火ようなものを―彼の全ての小説の中に…。
そうだ僕にとって彼の小説は、現代の「ヨブ記」だ。