デカダンティスムを感じさせる芥川賞受賞作
著者の吉村萬壱は、混沌とした未来世界でグロテスクな生物にとり込まれてゆく人類を描いたクチュクチュバーンという作品でデビューしました。その独特の世界観はハリガネムシにも顕著に現れ、舞台は1980年代の日本としながらも、暴力的なシーンは非現実的なまでに徹底しています。
主人公の男性は平凡な25歳の教師で、ソープ嬢のサチコと知り合い、アパートの部屋で自堕落な生活を送るうちに、欲望に流されて日常は崩壊します。やがて、車で四国への旅に出ることになった主人公とサチコですが、道中サチコのだらしなさや幼稚な性格に、殺意と欲望を入り混じらせた感情をおぼえて苦しむ主人公の内面は、人間の本質のひとつといえます。
そこには、リアルで痛々しい暴力や破壊の描写と、カマキリに寄生し水辺で尻から出てくるハリガネムシに象徴される主人公の黒い欲望が織り成す、破滅というテーマが表現されています。二人の身に次々と起こる残酷な仕打ちに着目しがちですが、その実、ハリガネムシに寄生されたカマキリのごとく堕ちてゆく人間の業と欲望の罪深さがいっそう際立って印象に残ります。
あまりのグロテスクさに、ハリガネムシを読了できない読者がいても不思議ではありませんが、その中に込められた人間の正直な欲望や衝動への思いには驚かされます。