直木賞受賞作「ホテルローヤル」
ホテルローヤルは桜木紫乃による7篇からなる連作短編集で釧路郊外にあるラブホテルを舞台にして、そこで起こる様々な恋愛や事件、人間模様を描いた作品です。ラブホテルというと一般的にはあまり良いイメージの場所とは言えないかもしれません。ホテルローヤルという題名からして官能小説の類かと間違えてしまいそうなほどです。しかし、そういった場所に愛着を持つ者、忘れがたい思い出を持つ者、それぞれの物語が存在するのだという事を思い知らされます。
ホテルローヤルを訪れたカップルの隔たった恋愛感覚に苦悩する女性の姿もあれば、閉館に迫られた時に働いていた職員が見てきた世界や思い出、ホテルに対する名残惜しさ、さらには、心中事件などもありますがそこにサスペンス的な要素は一切なく人の生き死が関わってきてもなお、人の心の内を考えさせられる深い作品です。
決して明るく前向きになれる作品とは言えないかもしれませんが、ラブホテルという場所と、悲しかったり切なかったりする出来事が妙にマッチしていて、物語に陶酔することが出来、心を動かされます。いずれにしても、ひとつの場所のイメージを作るのはその建物や外観ではなく、そこにいる人であるという事を味わえるちょっと切なく心にしみる作品です。