手塚治虫の当時の背景が読み取れる作品
メタモルフォーゼという作品は、手塚治虫が1976年から1977年にかけて発表した短編7作をまとめた短篇集です。その名の通り、変身をテーマとした短編の集合体となっています。それは、身体的な変身だけでなく、精神的な変身もテーマとして取り上げられています。丁度これらの作品が書かれた時期は、手塚治虫の第二次黄金期であったので、それぞれの作品は非常に高いクオリティを保っています。
この作品は、殺人的なスケジュール、締め切りに追われていた当時の手塚治虫が書いていたことも有り、本人の中ではこれ以上に書きたいと考えていたとされています。実際この作品を読んでいるとさらにこのような作品を読みたいと感じるかもしれません。
変身がテーマでありながらも、手塚作品の基本である命の尊厳、生命の神秘を物語の根源に置いており、手塚治虫独特のエッセンスを感じることが出来る作品ばかりとなっています。
特に最初の作品であるザムザ復活はインパクトの強い作品と言えます。フランツ・カフカの変身に影響を大きく受けた作品で、その描写は生々しく、ラスト自体も納得の行く物となっているのですが、二度と人間に戻れないという事、改造自体がなくなっていくわけではないという暗さを持ったものになっています。それ以外の作品も読み応えがあるので、手塚ファンであるのなら一度は読んでみることをお勧めします。