塩野七生の古代ローマロングシリーズ
「ローマは一日にして成らず」という言葉の意味を、読後に改めて噛みしめることになる一冊です。塩野氏の作品は、「歴史書でも、小説でも、物語でもないが、その全てである」といわれる魅力を持っています。歴史家からは「史実から外れている」などと批判を浴びますが、歴史は光を当てる角度によっていくらでもその姿を変えるものですから、当時の人の心のあり方を忖度して筆を進める執筆態度も歴史の一面を物語っていると思います。
「ローマは一日にして成らず」どころか、何日も戻ったりしますが、その度にローマ人は立ち上がり、自らの信念を貫きながら生きていくのです。塩野氏の「政体」への考察も興味深いものです。「王政」と聞くと、ギリシアの「直接民主制」に比べて遅れているような印象を受けますが、彼女はそうは考えません。
ちなみに、ギリシアでは奴隷はどんなに努力しても身分は変わりませんが、ローマでは努力次第では自由を手に入れることもできますし、主人とは深い絆で結ばれていることも少なくありません。(カエサルの遺体を生命の危険を冒してまで運んだのは彼の奴隷でした。)「ローマは一日にして成らず」は、塩野氏とローマ世界を共有する幸せな時間の第一歩です。