ドラマ化もされた隠れた名作が文庫で登場
著者は、『空飛ぶタイヤ』『半沢直樹シリーズ』『下町ロケット』など多数映像化され、大ヒット作を量産する池井戸潤。2012年に世に送り出され、2013年にドラマ化もされた自信作が文庫で登場!
努力しているが結果はいつも中途半端。学生時代から優秀な兄の陰に隠れながら生きてきた原島万二は、第三希望であった大手企業の子会社に入社する。
自分の人生はこんなものだろうと半ば諦めに近い思いを抱きつつ会社の歯車として働き、営業第二課の課長として奮闘していたとき、事件は起きた。
ぐうたら社員・八角が年下の上司でもある営業部のエース・坂戸をパワハラで訴えたのだ。
簡単に収束するだろうという周囲の考えとは裏腹に、事態は思わぬ方向に向かっていく。
それは単なるパワハラ問題ではなかった―
騒動の終息を託され、企業に隠されていた秘密と事の重大さを知ることとなった原島は生き残りをかけ戦い始める!
みんなの感想
◆サラリーマンなら、身につまされる思いに襲われるはず
具体的な人は思い浮かばないのに、登場人物の誰もが「こんな人、身近にいるよな…」と思えてしまう、見事な人物描写と設定はさすがだなと思いました。
東京建電の社員が抱える、会社のために生きるのか個人として生きるのかという迷いや、結果を出すことへの意欲と思い通りにならない焦燥感は、企業で働くサラリーマンなら誰もが一度は感じたことがあり、共感せずにはいられないでしょう。
ドラマも観ましたが、映像では表現しきれない繊細な心の動きは、やはり小説を読むことでしか知り得ません。この作品の魅力は絶対、小説で味わうべきです!
◆リアリティとドラマが交錯した仕込みに引き込まれる
全八話が独立した短編なのかと思いきや、読み進めるうちにそれぞれの物語が絡み合い、劇的な展開へと通じていく面白さは、難問を解いたときの達成感にも似ている。
企業という“塊”が起こした不祥事だと考えると、どこか冷ややかな感覚を覚えるが、そこに身を置く人間が自分の善意と悪意、正義感と弱さとの狭間で葛藤にもがく生々しい描写に触れ、興奮せずにはいられなかった。
営業部員に課せられる負担が大きすぎる点は、若干リアリティに欠けるが、そこがこの作品のドラマ性を高めているのだと頷けるので違和感は少ない。
池井戸潤が企業に対し、問題意識を投げかけていこうとする使命感をひしひしと感じる。