大学生の就職戦線から己の姿を描く直木賞受賞作品
「何者」は朝井リョウの代表作の1つで第148回直木賞受賞作品です。同世代の若者だけでなくかつてその世代を生きた大人も夢中にさせる作品。「何者」でもないのに「何者」かになりたい自分。誰かに見られる事を前提に作り上げられた自分。そういうところは多分、私以外のみんなにも思い当たるところだと思います。特にこの作品に登場するTwitterなどのSNSが身近にあり、別の自分を作り上げることは容易です。
でも、どんなにインターネットのなかで繕った自分を晒して現実から逃げても、どんなに努力したところで私たちは「何者」にはなれない、自分自身にしかなれないということを改めて突きつけられたように感じます。作中に登場する肩書きを並べまくる理香さんも、希望の就職を諦めて家族の一員としての自分を受け入れる覚悟をした瑞月さんも、そして就職活動の中で周りの友達を変に冷静に分析して傍観者のような気持ちになっているかっこ悪い自分というのに気づいた主人公もみんな特別ではありません。
そんな特別ではない登場人物たちを通して、想像上の「何者」かになりたがる私達に現実の「何者」でもない自分に戻ろう、そうしないと先はないよ。というメッセージを伝えてくれているのだと思いました。