第135回芥川賞受賞作他2篇
第135回芥川賞受賞作「八月の路上に捨てる」は、伊藤たかみの小説。この作品は、ぐさりと突き刺さってくるような心理描写が描かれるタイプのものではありません。
純文学としてこれを求めている方には少し物足りなさを感じるかもしれません。ですが、ちょっと肩の力を抜いて長い文章を読んでみたいという方にはうってつけです。さらさらと読みやすい文体であまり文芸作品を読まない人でも読み進んでみようという気にさせてくれます。
日常のどこにでもあるような些細な出来事を、ほのぼのとした語りで描いた作品です。心温まる、というわけではないですが、文体が清々しく、読んでいて気持ちが良いです。思わず微笑してしまいそうになります。昭和のレトロ感に通じるところがありなんともなつかしい感じ。
「八月の路上に捨てる」の内容は実際にありそうな離婚の話です。お互い好きになって結婚したのに、いつのまにか我慢するようになって少しずつすれ違っていく。元に戻したいのだけれどうまくいかず、お決まりのパターンで浮気に走ってしまう。結局は自分の問題なのだけれど。そんなどこにでも普通にありそうなお話です。
本書には「八月の路上に捨てる」以外にも、「なぜかホッとさせてくれる短編」が2編(「貝からみる風景」、「安定期つれづれ」)収録されています。