第147回芥川賞受賞作品「冥土めぐり」
「冥土めぐり」で第147回芥川賞を受賞した鹿島田真希氏は、三島由紀夫賞、野間文芸新人賞など、新人文学賞として三冠に輝いたほか、絲山賞なども受賞しています。若かりし頃にはロシア文学にも傾倒した時期がありましたが、大学ではフランス文学を専攻したことで、鹿島田真希氏の文章にはフランス文学の影響を色濃く感じることができます。
「冥土めぐり」は、過去の裕福であった生活の思い出ばかりにしがみつく母親と、すでに生活に窮している母親にお金の無心を繰り返す弟、この二人との生活から逃げ出すこともせず、ただ淡々と日常を過ごしていましたが、解放されたのは夫との結婚によってでした。
夫は人に対する悪意を持つことすらない、善人です。しかしその夫を特別好きでもなく、ましてや尊敬しているでもない主人公が夫に対する愛を感じたのは、二人で行った旅行先ででした。
この時に初めて夫を愛していること、そしてまた二人で過ごすことは永遠ではなく、夫が神様からの借り物であると感じます。
「死がふたりを分かつまで」という牧師の言葉を彷彿させるものですが、鹿島田真希氏は受洗していますので、元来その意識がある作家と考えられます。
夫の不治の病の事実も加わり、「冥土めぐり」は誰でも大なり小なり持っている過去からの影響と、自分自身がいかにして生きてゆくかなどを深く考えさせられる作品となっています。