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別れぬ理由

別れぬ理由

著者 ページ数 クチコミ評判
渡辺淳一 205ページ ★★★★★

現代の夫婦像を考えさせられる名作

 主人公の速水修平は、都内病院に勤務する整形外科で医長を務めている。その妻である速水房子はフリーの記者を経て、現在は編集部で働くキャリアウーマンである。高校生の娘は寮生活。週末にしか実家に帰らないため、実質は夫婦二人暮らしである。都内の高級住宅街に住み、世間体的にも経済的にも自由。一般人からしてみれば羨ましい限りの生活をしている。
 ストーリーは、主人公が不倫関係にある岡部陽子との逢瀬からタクシーで自宅に帰宅する場面から始まる。自分だけがいい思いをしているうしろめたさ、不倫に気が付いていない妻への憐れみ、そして予定より帰りが遅い妻への苛立ち。さまざまな感情が入り混じるなか、1本の男性からの電話により主人公の心境は一変する。主人公は動揺し、「自分の妻は浮気をしているかもしれない」と疑い始める。
 欲求5段階説を説いたアメリカの心理学者マズローによれば、人間が順に「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「尊厳欲求」が満たされると「自己実現欲求」が芽生えるという。ならば社会的に満たされているはずの人間は、不倫で何を満そうとしているのか。生きて行く上で大切な本質を考えさせられる作品である。

みんなの感想

◆恋愛と単なる不倫の違いがわかる1冊

 渡辺淳一さんらしい、男性目線から男女関係を描いた本だと思いました。ご主人と奥さん、男女の不倫の動機や心理描写の違いは見事です。ただこのお話は単なる「不倫」であって「恋愛」を描いた作品ではないです。自分は不倫であっても根本は恋愛だろう、と思っていたのであまり共感できませんでした。もし著者が新たなパートナーシップを描きたかったのだとすれば、明らかに失敗している残念な作品だと思いました。

◆男性の価値観と孤独

 不倫する人はなぜ結婚するんだろう、と単純に疑問だったので読んでみました。わたしが一番印象的だったのは、主人公が老いていく虚しさに駆られ「はたしてこれで、自分の人生はよかったのか・・・」と思いを巡らせていく場面です。主人公の価値観は世の大半の女性を敵に回すような内容だと思います。初めは嫌悪感しかありませんでしたが、よく考えてみると孤独で心が貧しければ人生は何にも意味がないのかもしれないな、とちょっと同情しました。



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