市川海老蔵主演で映画化もされ国内外で高評価を得た「利休にたずねよ」ですが、原作の本はまた一段とその風情、わび・さびの心をゆすぶられる作品です。見どころは数多くあり、利休が若き日に恋した異国の女とのたった数日の恋にあると思う人もいれば、弟子との思いの交錯にあると思う人もいるでしょう。
しかし、中でも最初から一貫して語られる、天下人豊臣秀吉との微妙な距離、心の機微、その二人が接することにより利休という人物がどのような人物だったのか、そして秀吉という人物がどんな人物だったのかリアルに体感できるエピソードが何よりも引き込まれるポイントです。天才的・絶対的な美的感覚をもって秀吉を凌駕し見下す利休を許せない、しかもいかに金を積み美しいものを取り寄せ技巧を尽くしても利休の境地を超えることも再現することもできない、その憤りから利休や利休の弟子たちの首をその権力を持って刈り取っていく秀吉の人間臭さ、天下人であるがゆえの執拗さ狭量さが生々しくも印象的です。
また、その絶対的美観を育て、決定付けたと思われる若き日の思い出、白い芙蓉の花にまつわる物語と利休に寄り添った美しい妻の複雑な心の有様も考え深く「美とは何か」「愛とは何か」「人の心とは何か」を利休にたずねたくなる一冊です。