政治結社からも出版妨害にあった衝撃的エログロ作品
劇画家畜人ヤプーは、沼正三なる現在でも正体不明の作者の手により1956年『奇譚クラブ』にて掲載されたSF(SM)小説が原作。本作は連載直後から三島由紀夫をはじめとする文化人・知識人の間で話題になっていた作品で、三島は多くの人にこの家畜人ヤプーを勧めていたこともあり、それが本作の名をなしめる切っ掛けともなった。しかし内容が内容だけに原作の単行本出版に際して様々な妨害が行われたことでも有名である。
今回紹介するのは、その家畜人ヤプーの劇画版だが、劇画家畜人ヤプーの第一巻は仮面ライダーなどで有名な石ノ森章太郎が作画を行っている(2巻以降監修に徹し、以降作画は弟子のシュガー佐藤が担当)。石ノ森章太郎はあとがきなどに原作家畜人ヤプーは文字で書かれた漫画であると評していて、またそのコミカライズに際しての苦労もこぼしている。
まず本作の感想を述べれば全巻読了しても、決して楽しい気分にはなれない作品であること。しかしなぜ読み続けたのかといえば、有無を言わさぬパワーに圧倒されたこと、怖いもの見たさ、そして読者である私が、勝手に予感し期待した、いつか訪れるであろう大逆転劇のためでもある。しかし本作家畜人ヤプーは、そんな私の能天気な予感とは裏腹に無常であり続けるのだが、主人公は結果的に立場をすすんで受け入れられたことから考えると、ある意味ハッピーエンドで締めくくられた作品であるといえるのかもしれない。
一個人の感想を率直に述べると家畜人ヤプーは、不快である。本作を観る上で何が不快であるかといえば、日本人=ヤプーが家畜として扱われていること。家畜であるのだから、もちろん食糧ともされているのだが、ヤプーの役割はそれだけでなく人体改造を施され「生ける椅子」や「犬」はては「性玩具」や「便器」といった道具にもされ、さらに日本人たる家畜人は、その排出される汚物喜んで受け入れる・・・。こういった猟奇的な描写は最後まで描き続けられているので、そういった趣向のある人以外はどこまで楽しんで読むことができるか・・・、いずれにせよ読み手を選ぶ作品であることは間違いない。徹底的な日本人の卑下と白人の強さ美しさが対照的に表現されている。
作品の舞台は未来の世界。第三次世界大戦の戦火により地球が核兵器・生物兵器に蝕まれ汚染される。それを機にイギリス女王を旗頭として生き残った白人達が地球を脱出する。一方地球では、なんとか生き残った日本人と北米の黒人たちが地球の預かり人となるのだが、やがて先に地球から逃亡した白人が地球に帰還し征服されてしまう。その征服を機に、白人=神、黒人=奴隷、日本人(ヤプー)=家畜と定義された世界が構築される。なお家畜=黄色人種の日本人なのだが、中国をはじめとする黄色人種は日本を除いて核戦争で絶滅している。
また、男性優位な世界から女性優位の世界へと変貌しているのも本作の特徴。男性は私有財産を持つことを禁止され、かつ化粧に何時間もかけ、学問と芸術だけをしていればよいといった立場で描かれており、政治・軍事・司法など重責を担う仕事は女性のみが行うことになっている。この作品世界の「女々しい」という言葉は、現実世界の「雄々しい」と同義語であるなどまさに女性が強さの象徴となっている世界を表している。
そんな世界に、ある事故をきっかけに現代に生きる主人公の日本人「瀬部麟一郎」と、そのドイツ人の婚約者「クララ・フォン・コトヴィッツ」が舞い降り物語が始まる。いずれによせ怖いもの見たさ、という知的好奇心がある方は一度見ておいても良い作品かもしれない、しかしそこには決して爽快さや楽しいといった読後感が存在しないことだけは保証しよう。
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