フハハハハ。よくぞ我がレジまでたどりついたな、お客様め
『勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。』は、左京潤(著)/戌角柾(イラスト)のライトノベル作品。2013年10月には独立局系やAT-XなどのCS放送でTVアニメ化もされた2011年ファンタジア大賞金賞受賞作品。
物語は、魔王が人間の脅威となって君臨する剣と魔法の世界で、勇者になる事を夢見る主人公のラウルは着実にその道を歩みはじめていたのですが、突如として魔王を倒したという別の人間が勇者になってしまい、職を探さなければならなくなるという格好で本作は始まります。
『勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。』は、近年の流行であるラブコメの調子が強い作品ではありますが、魔物を倒した者に報酬が与えられる勇者制度については、ファンタジー世界の社会経済の仕組みをリアル視点で描いています。
また魔王との戦いが終結してしまった以上、制度を廃止せざるを得なくなったという展開も現実味があるのと同時に、現代日本人にとっても感情移入がしやすく好感を持ちやすい設定となっています。
ラウルは勇者養成機関で好成績を修めた実力者として描かれており、勇者制度が成立していた頃に社会で有利な立場につきやすい資格を取得しています。しかし、制度廃止で経済界の指針から武器の生産がされなくなり、戦いのプロフェッショナルも社会から必要とされなくなって就職難に陥る流れも、「突然訪れる挫折というのは誰しも経験する事」を痛感させられます。
また、ラウルやメインヒロインのフィノ、そしてラウル以外の元勇者候補者たちの、現実の仕事現場の厳しさが分かる展開は大きな見どころです。
マジックショップの先輩で勇者になれなかったラウルが、バイトとしてマジックショップに入ってきた魔王の娘である世間知らずなフィノに仕事を教えるという不思議な状況での的外れな掛け合いが非常に面白おかしく描かれています。
魔王という設定の人がお店に立ったら確かにこんな感じのしゃべり方かもと思える「フハハハハ。よくぞ我がレジまでたどりついたな、お客様め!」に対してラウルが敬語の使い方を教える、というのは今まで見たことのない作風だったので楽しめました。
そういった世界観の中で労働のやりがいや、幸せを感じる主人公達が描かれていて、さすがは2011年ファンタジア大賞金賞受賞作品だなと思える1冊です。