史実にスパイスを利かせた傑作料理
時代劇ミステリーとも言うべき小早川涼による人気シリーズ「包丁人侍事件簿」の一冊が「包丁人侍事件帖 将軍の料理番」です。
天性の鋭い嗅覚から江戸城の台所人として仕えている鮎川惣介は、身分的には高いものではないものの、度々将軍からお声がかかり、話し相手をさせられています。
そのやっかみもあって「台所に身をやつした御庭番」などと揶揄する声もあり、本人もそれを知らないわけではないものの、持ち前の飄々とした性格で荒立てるでもなく過ごしています。幕府に絡む謎などを嗅ぎつけては事件に巻き込まれ、幼なじみの御広敷・片桐隼人とともにそれを解決してゆきます。
同シリーズ「将軍の料理番」では大奥で起きた盗難事件を調べてゆくうちに、そこに陰謀が見え隠れしていることに気がついた鮎川惣介が片桐隼人とともに謎に迫ってゆきます。太平の世の武士達の生活がいきいきと描き出されていることに加え、おいそれと題材にできないような歴史上の大人物滝沢馬琴や田沼家といったお歴々とのからみも見どころの一つです。
京都訛りのいけ好かない新参料理人雪之丞も現れ、ますます謎は深まってゆきます。包丁人侍事件簿シリーズの著者である早川涼氏は歴史好きが高じて教師となるほどの人物。江戸時代に愛を感じる語り口が、ファンを引きつける魅力の一つとなっています。