漫画史上屈指の最悪な読後感
『地獄の子守唄』は、「日野日出志」の代表作の1つで、表題作「地獄の子守唄(少年画報1970年)」の他「胎児異変 わたしの赤ちゃん(週刊少年キング1973年)」・「恐怖列車(少年アクション1976年)」・「蔵六の奇病(少年画報1970年)」の4つの短編漫画が併録された電子書籍版のコミックスです。
表題作「地獄の子守唄」は、漫画史上屈指の読後感が悪い作品としても有名です。どのように悪いかは、ここではあえてネタバレせず、是非ご自身の目で確かめていただきたいと思います。前置きも周到で作者である日野日出志は「これから、狂気と異常にみちた恐るべき告白をする」旨を伝え、「気の弱い人や病人はこれから話す物語を見るべきでない」と念を押しています。
さらに「わたしはもちろんのこと編集部も責任を負わないからそのつもりで!!」と最終警告をしたうえで日野日出志は告白を始めます。わたしは狂っているのだろうかと発作が起こると自損行為を行う現在のわたしから幼少期の思い出に話が移行します。幼少期の思い出として生きたまま動物を火あぶりにしたり、犬の臓器を取り出し持ち帰り宝物として隠し持つなど確実に危ない、猟奇趣味全開の人間性を告白します。
まさに猟奇殺人者のモデルケースなような告白ですが、この作品が世に出たのが1970年前後で、この年は三島由紀夫が割腹自殺を図った年でありビートルズが解散した年で、その時代を生きていなかった人間からすると、かなり昔に感じます。そんな今から40年以上前(話は作者の幼少期なのでさらに10年ほど昔の50年以上昔か)の時代にも変わらずこのような猟奇犯の典型的な行動をする人間が存在したのがまず驚きです。半世紀経ち、文化的な観点からはかなり進歩したとしても、人の本質はやはりそれほど変わらないのかもしれません。
これら猟奇的な告白で、ぐいぐい読者を作品に引っ張り十分に没入させたうえで行う最後の告白。正直この構成力は素晴らしいと感嘆させられます。同時に当然読後感が極めて悪く、変なものを読んでしまったと、いくらか後悔もしました。この作品を読んだことが無い方は、是非その手に取っていただきたいと思います。もっとも「わたしは、もちろんのこと編集部も責任を負わないからそのつもりで!!」自己責任でお読みください。
また本作に収録されている別作品では、「蔵六の奇病」はかなり出来の良い作品です。救われない作品ではありますが、日本の昔話的な美しさと陰鬱さを見事に表現している秀作です。