算術と暦へかける情熱
『天地明察』は冲方丁(うぶかたとう)による小説です。第31回吉川英治文学新人賞、第7回本屋大賞を受賞し、2011年には月間アフターヌーンでマンガ化、2012年には映画化もされた話題の1冊です。
渋川春海という江戸時代の実在した人物を主人公としています。幕府碁方の家系に生まれた春海は御城碁に出仕する務めを果たす一方で、算術にたいへん関心を持っていました。幕府は春海の算術の才能を見いだし、改暦事業の中心となるよう任命します。
物語の冒頭、碁に関する描写がまず読者を惹きつけます。お城で対局する幕府碁方という名誉ある役職にあり、日本でトップクラスの碁の才能に恵まれながら、現状に満足しない春海の姿が描かれます。やがて春海は北極星の観測隊として出向くことになり、その後、生涯をかけて暦の作成に取り組んでいきます。春海と仲間たちが算術と暦の作成にかける情熱が見どころです。
会話も含め現代文で描かれているので、時代小説という印象は薄く、誰にでも読みやすい小説です。当時の歴史的背景が丁寧に説明され、また、後世どういった形で伝わったのかという解説も交えているので、日本史が苦手な人でもすんなりと読むことができます。物語の中で算術の問題が出題されるので数学好きの人にはいっそう楽しめる作品となっています。
春海に関わってくる人物も個性的です。和算の完成を成し遂げた関孝和も登場します。関孝和は圧倒的な天才として描かれ、秀才タイプの春海と対比的に描かれています。春海の妻など女性たちも魅力的です。