8つの短編からなる1冊です。筆者は、切なさの達人と呼ばれるような路線とグロテスクな残酷さを淡々と描く路線という2つの作風を持っており、それぞれ“白乙一”“黒乙一”とファンの間では呼ばれています。この本は“白乙一”の方の作品です。切なさと苦しさで胸が痛くなったり、ユーモアに溢れた内容にニヤニヤしてしまったり、感動で涙が止まらなかったりと様々に感情が揺さぶられ、短編といえども1話1話の世界観がとても重厚で引き込まれます。
私が特に好きな話は『しあわせは子猫のかたち』です。内気な大学生である「ぼく」が思いがけずお茶目な幽霊と同居することから始まる話なのですが、序盤はいたずら好きの幽霊とそれに翻弄される主人公というほのぼのとした雰囲気が漂っているものの、後半から急にサスペンスに変化し、終盤では切なさが胸に残りますが同時に心が晴れる気持ちにもさせられます。
消えてしまった幽霊が主人公あてに書き残した手紙を読むシーン特に大好きです。死んでしまい、この世から消えてしまった人から生きるということ、生きていくということを諦めないでと背中を押される。この部分は何度読んでも泣けます。他には鳴海璃子と小出恵介出演で映画化された『Calling you』や、こちらも玉木宏と小池徹平出演で映画化された『傷-KIZ/KIDS-』も収録されています。