昭和レトロを感じさせる第143回直木賞受賞作品
「小さいおうち」は、中島京子による作品で、第143回直木三十五賞受賞した昭和初期のある家庭を中心に描いた作品で2012年11月には山田洋次監督によって映画化(主演松たか子)もされた人気小説です。内容は山の手の小さな赤い屋根の「小さいおうち」に女中としてつかえたタキさんの回想を手記という形で語られている物語です。時代は昭和初期です。
この時代の様子が、優美に生き生きと描かれています。タキさんの話し方も上品で、古きよき時代を感じることができます。戦争という暗い時代を過ごしながらも、日常が淡々と語りかけるように優しく表現されています。タキさんの回想している様子が目に浮かぶようです。思い出が輝きながら浮かできているのかなあと思わせる感じです。
「小さいおうち」の中心として働いている女中のタキさんの、主人家族へ向けられる温かい愛情が感じられる作品です。物語は穏やかに、哀しく進んでいきます。いろんな女性の恋愛について丁寧に描かれています。戦争を扱った歴史物は、作品としても暗いものになりがちです。ですが、タキさんの優しい口調は魅力的で、暗い雰囲気を感じません。
恵まれたそれなりに裕福な家に小さな恋愛事件が起き、それは唐突に終わってしまいます。作者はあるエピソードを通して、最後に大きな仕掛けを用意しています。戦争へ突き進む当時の日本社会の変貌と家庭を切り盛りする女中タキさんとの対比が新鮮です。「小さいおうち」を読んだ後はなぜか温かい気持ちになれるに違いありません。