那須輝一郎が送る、新宿ストーリー物の原点作品
歌舞伎町一番街に居を構える古びた弁護士事務所。大きな体の割には冴えない風体の中年、男やもめの貧乏弁護士、綾小路春彦。しかし、弁護士としての腕は確かで、一旦事件に関われば長年培われてきた経験と知識で、依頼人のために真相を追究する敏腕ぶりを発揮する。かつてはメキシコ五輪のレスリング代表に選ばれるほどの身体能力を備えた異彩の経歴を持つ男でもある。
そんな春彦の元に依頼人が訪れる。ビジネスの帝王といわれ、急逝したばかりの安達徳太郎の愛人、牧野愛。安達徳太郎の財産を巡り、安達の本妻とその子供たちとの間にいざこざが生じたため、安達自身が捺印をした正式な手段で作成された遺言書とは違う、もう一つの遺言書があるとして、春彦へ相談に訪れたのだった。安達の遺言に従い、彼の残した財産を元に慈善事業をしたいと言う彼女の言葉に心を動かされた春彦であったが…。
依頼者と、依頼者を貶めようとする関係者たち。それぞれの思惑が渦巻くなか、春彦は事件の裏にある真相を暴く。オムニバス形式で収録された熱血弁護士の事件記録。
みんなの感想
◆事件性の身近さ、生々しさ
この1巻では、死人が出たり、何か奇怪な事件が起きる訳ではなく、遺産問題や詐欺事件、強姦事件など多くはないが、身近に起こりそうではある事件が多く描かれている。そのため、妙なリアリティがあるというか、多少誇張はされているけど登場人物の心理状態の生々しさを感じられる作品でした。依頼者が春彦の手を借りて加害者をやり込める展開ですが、どの事件もラストは加害者に同情はしないけど憐れみを感じる内容です。弁護士、という肩書ですが、依頼に従って調査をする展開で、探偵モノとしての色が濃い作品だと思いました。
◆果たして誰が正しいのか
様々な事件に共通するのは、加害者だけではなく、依頼者にも見え隠れする意地の悪さや、がめつさ、そして弱さである。依頼者として現れる人々は今にも助けてほしいと困窮した状況を訴えてくる。それに対して基本的に中立の立場であろうとする春彦だが、加害者側に対する依頼者の憎悪や、復讐心から、春彦の人の良さ、押しの弱さを利用される。
また、加害者側が一方的に悪人なのではなく、その心の弱さや恐れ故に人を陥れようとする陰険さや醜さが実に人間らしい。