仮想歴史を楽しめる「影武者徳川家康」
影武者徳川家康は、『隆慶一郎』作の時代小説でIFものに分類されるであろう作品です。1986年から1988年まで静岡新聞で連載され、後に北斗の拳で有名な原哲夫の手により週刊少年ジャンプで漫画化もされ、さらにはTVドラマ化もされています。
徳川家康といえば、最終的には戦国の世の覇者となり征夷大将軍になりましたが、覇業の中途では何度も死を覚悟するほどのピンチに陥っています。よく知られているのは、三方ヶ原の戦いで武田信玄との合戦で大敗し、小便を漏らしながら城に逃げ帰ったというものと、明智光秀に攻め込まれて織田信長が本能寺で自刃した時、滞在していた大阪から脱出するために悪戦苦闘した伊賀越えなどの話です。
史実上では、何度も死地に追いやられてもしぶとく生き残る家康ですが、小説『影武者徳川家康』は関ヶ原の合戦で家康は討たれてしまい代わりに影武者が戦い、その後も徳川家康と入れ替わり活躍したという作品です。
関ヶ原の合戦で勝てば、徳川家が天下を取ることが確定していたので、家康の家臣たちは、家康が死んで影武者が家康になったことを受け入れます。しかし、家康の子供で正当な世継ぎである徳川秀忠は、影武者がずっと将軍として居座っていることが許せず、彼の排除を企てます。この小説の見どころは、家康に代わって平和な世の中を作ろうとする影武者と、彼を殺そうとする秀忠の心理戦です。
徳川秀忠というと、世間的にはあまり優秀ではない二代目将軍というイメージですが、この小説では優秀ではないものの、かなりの悪人として書かれていて、悪役としての存在感はかなり凄いです。実際に、豊臣秀頼を攻めた大坂の陣で家康は死んでいたのではないかという話もあり、歴史の「もし」を楽しめる小説と言えるでしょう。