天使と悪魔の顔を持つ村山由佳の直木賞受賞作品
「星々の舟」は村山由佳の小説で、第129回(2003年上半期)の直木賞受賞作です。文藝春秋社からハードカバー版、2006年には文庫版が出ています。村山由佳の作品は大きく分けて二つの「白ムラヤマ」「黒ムラヤマ」に分けることができます。映画化もされた「天使の卵」に代表される「白ムラヤマ」はピュアで繊細な青春小説といった傾向の作品群です。これに対して「黒ムラヤマ」は「ダブル・ファンタジー」に代表され、ダークで、アダルトな雰囲気の作品群です。この「星々の舟」はどちらかというと「黒ムラヤマ」に属し、一言で言うと重厚な小説だと言えます。
「星々の舟」は章ごとに主人公が変わる、家族の物語です。兄妹愛、不倫、いじめ、太平洋戦争といったそれぞれの悩みや問題をテーマにしていて、解決できるものではない部分も多くあるので、読み終わったあとにスッキリとするものではありません。解決のできない哲学系の本を読んだあとの気分になります。このタイプの本が好きな人には、色々と考えることができ、自分を掘り下げる思考にどっぷりとハマることのできる、そんな本です。しかし、本にエンターテインメントを求めるタイプの人には一読の価値はありますが、読後感のいい本ではありません。