「私」を中心に描かれた、独特の構成が魅力
未明の闘争は、保坂和志の長編小説で、第66回(2013年)野間文芸賞受賞作品です。
本作は、冒頭の一文
「西武百貨店の手前にある「ビックリガードの五叉路」と呼ばれているところで、私は一週間前に死んだ篠島が歩いていた。」からかなりのインパクトがあり、読者を冒頭から釘付けにします。
語り手である「私」が、饒舌に押しつけがましくもなく、死んだはずの篠島やかつての飼い犬や飼い猫の声を聞きとってそれを代弁しています。
多くの話が入り乱れていきますが、また知らぬ間に元に戻っている不思議な世界です。決して、分かりにくくなく自然と物語に入って行き、いつの間にか物語に入りこんでしまう面白さがあります。
この物語の、基本になっているのは篠島とペット達の死という2種類の死者達です。その2種類の死者達が、他の女達と結びつけられて、この物語の主題である霊魂や分身や前世といった題材を生み出していきます。
多くのエピソードをそれをめぐる思いを繋いでいるのは、「私」の存在です。その為「私」は、唐突に作品の中で随所に登場して来ています。この独特の世界観が、読者を物語に更に引き込んで行きます。
この物語の見どころは、著者の独特な物語の構成です。物語の語り手である「私」と誰かの相互性が徐々に作者と著者の相互性になっていきます。作者が、読者と共に描いているそんな物語がこの本です。読者は、不思議な物語に最後まで飽きず読む事が出来ます。