荻野アンナさん 書評
毎年、春になると思い出す。
<桜の樹の下には屍体が埋まっている!>
梶井基次郎の『桜の樹の下には』の冒頭の一行だ。1人で満開を見上げるとき、桜はその美しさで人を不安にさせる。「なぜ?」と毎年自問して、答えが見つからないまま次の季節に移る。自分の言葉では表現できない分、梶井の「屍体」に寄りかかって現実の桜をやり過ごしている。
記憶の中の一行ではなく、全文を読みたい、と思っては忘れていたのが、電子書籍のお蔭で今年はアイスクリームの値段で読めた。春の儀式として、毎年このページを開こうと思う。美しい表紙に包まれた、黒い宝石のような名作を味わうために。
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