伝説の日本未翻訳作が北方謙三によって刊行
『楊家将(ようかしょう)』は壮大な中華軍記物の一つで、長らく日本語訳が出版されておらず銀河英雄伝説などで有名な田中芳樹が「中国歴史ロマンシリーズ」として刊行予定ではありましたが実現せず。この北方謙三の作品でようやく日本語の出版物として読むことができるようになりました。しかしながらこの作品は単なる翻訳ではなく、北方謙三によって息吹を与えられた、オリジナル作品と呼ぶにふさわしい1冊です。
この物語は、北漢の名将でありながら宋に帰順した楊家の長「楊業」を軸に、その息子達と遼との戦いを描いた作品。伝説の英雄と呼ばれた、楊家の漢達の姿が作者の力で、より熱き漢に描かれています。見どころは、やはり白き狼と呼ばれている遼の将軍と楊家の漢達の戦いです。
白き狼に何度も翻弄されながらも、楊家の漢達は戦い続けます。その戦いの描写は、圧巻で戦う事の天才と謳われる楊家の漢達が見事に描かれています。何度も戦いが繰り返されますが、どの戦いも、まさに戦が目の前で繰り広げられているようで、その表現の秀逸さに驚きを隠せません。
漢を描くの上手いハードボイルド作家だからこそ、この楊家の漢達がここまで見事に描かれたのではないかと思われます。中国の歴史小説にありがちな、宮廷政治の部分も極力抑えられており、戦いの部分に中心を置いているので読者を惹きつけます。人物の描写が秀逸で歴史小説を読んでいるのではなく、まるで冒険小説を読んでいるような感覚になる1冊。
また本作は『水滸伝』とのつながりもあり、好漢青面獣楊志が楊家の子孫というだけで併せて水滸伝も読みたくなります。また、同じ楊家を描いた作品に『楊令伝』などもあり、『楊家将』の作者が同じ楊家をどのように描いたか、読み比べてみるのも一興です。