134回芥川賞受賞の短編小説
「沖で待つ」は、絲山秋子の短編小説で第134回芥川賞受賞作品です。この『沖で待つ』は非常に読みやすい文体だというのが第一印象です。男女間、ただこれだけではなく同期入社という良いバランスの人間関係。人物がぽんと発するセリフであったり心情であったり、非常にリアリティを感じさせつつも、詩、死、HDD・・・これらの取り合わせ方、バランスが絶妙だったように感じます。
「沖で待つ」このフレーズは、きっと読む前には違う響きを持ち、この本を手に取る人が多いのではないでしょうか。読みやすい文体はあえてこのスタイルで、小難しい技なしでも完成度の高さを感じるのはまさに芥川賞を受賞するにふさわしい作品です。
決して、学生時代の同級生とは違うこの距離感。社会人として生活をしている人であれば、沖で待つを読み終えた後は必ず前向きに、からっといい気分になれるのではないでしょうか。文庫版は合計3編収録されており、『勤労感謝の日』この短編も痛快な一作となっています。楽観的な主人公「恭子」が非常に面白く描かれています。生きていくこと、社会に出るということ、これはスピードなのだな、と感じさせられました。
表現やページごとに振り回される不思議な感覚、これは作者が意図的に行ったものなのだろうか、それとも読んでいる自分の心情が勝手にそうさせるのだろうか。これらの気持ちを胸に、再読するのだろうなと思いながら読み終えることでしょう。