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男の貌 夢枕獏短編アンソロジー

男の貌 夢枕獏短編アンソロジー

著者 ページ数 クチコミ評判
夢枕 獏 176ページ ★★★★★

男の激しい情念を描いたものをセレクトした作品集

『男の貌 夢枕獏短編アンソロジー』は、作家夢枕獏が1980年代に発表した多数の短編作品から男の激しい情念を描いたものをセレクトしたものである。
本書収録作の背景にあるのは、プロレス、将棋、釣り、格闘技の世界。それらの世界の王道を歩めなかった男たちはどのような顔をして道を歩くのか。様々な感情を押し隠した男の横顔を描く。

「真剣勝負・シュート」と「拳屋・ナックルビジネス」は、『仕事師たちの哀歌』からの二篇で、プロレスの世界を生きる男たちを描いた作品で、80年代のプロレスを想起させる。
「闇烏」と「夕映」は、連作短篇集『鮎師』からの二篇で、「釣り」、しかもマニアックな毛鉤による鮎釣りをテーマにしている。自他共に許す釣り好きの作者ならでは「釣り小説」である。
「夕映」と「浮熊」は、将棋そのものを物語の芯に据えた連作短篇集『風果つる街』に収録された作品。将棋が日常的な「勝負ごと」であった時代に、将棋に取り憑かれた人間の闘いと流浪の様を描き出している。
「私怨」は、『餓狼伝Ⅰ』第二章であり、餓えた狼・丹波文七が、素手で闘う意味がアイロニーと共に隠され、丹波のライバルである姫川が、欲望に忠実でいながらストイックという個性を遺憾なく発揮している。

レビュー

著者が1980年代に発表した短編集の中からザ・漢をテーマにしたものをセレクトした作品。
各作品からの持ち寄りなので、夢枕獏先生の入門書として読みやすい。この中で気になった作品を読んでみるのもよいだろう。

プロレス、将棋、釣り、格闘技の世界を背景にした物語だが、輝かしい舞台ではなく、王道を歩けなかった男を主人公にしている。
彼らはそれぞれの事情からその世界の敗者へと回ったのだが、どうにかして這い上がろうという気合いが感じられる。しかし、そこからは闘いの世界に身をおき、敗者となった男の哀愁が感じられる。「私怨」での姫川と冴子の絡みのシーンは、描き方が実に官能的であり、名手と言わざるを得ない。
また、80年代に書かれているため、設定がその当時または以前ということで作品全体に古きよき昭和の哀愁さが滲み出ている作品ばかりである。古き良き時代の男の横顔が見られる、そんな作品である。

電子書籍ランキング.com 編集部S



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