奥田秀郎の直木賞受賞作「空中ブランコ」
彼の作品はとてもジャンル付けが難しく、いつもエッセイやらミステリーやら群像劇やらとバラバラですが、この作品のジャンルは強いて言うならば日常ファンタジーでしょうか。まず、この作品タイトルを見て皆さんはなにを思うでしょうか。サーカスの話かな?それとも空中ブランコみたく不安定な人の心情を描いた話かな?いろいろと考えるでしょう。実は大外れ。
これ、神経科のお話なんです。
何個かの短編に分かれているのですが、一番最初の話は公演に失敗してしまったプロの空中ブランコ乗りが、神経科を紹介されて訪れる。こんな話です。
ここまで見ると割とまともな話に見えるのですが、奥田秀朗がそんなまともに終わるわけがない。出てくるキャラクターは濃い人ばかり。特に主人公的な立場とも言える神経科医の伊良部のキワモノさは群を抜いています。
人の話を聞かない、患者がサーカス団員だと聞いたらまだ診療も終わってないのに公演を見たいとごねる、ずぶの素人が開演前の練習に混ざろうとする。
字面だけ並べてみてもどうでしょうか、この人としての駄目さは他の小説では味わえません。
ではこの話は伊良部の変人記録なのかと聞かれれば、それも違います。上記にも書いたとおり、キャラクターは濃い人ばかり。勿論それは患者だってそうです。毒をもって毒を制す。それがこの話の面白さの真髄なのです。