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第2回 電子書籍をしっかり考えるポイントはなにか

永江一石の電子書籍ダイアリー

第2回 電子書籍をしっかり考えるポイントはなにか

2016年5月31日

さて、先週のことですが、古い知人のコピーライターと電子書籍についていろいろ話すことがありまして、そのとき語ったことを

今後、電子書籍はどうなるの

という具合にまとめたいと思います。まあ、異論はいろいろあると思いますが、とりあえず私はこう考えてますよってことでひとつの参考にしてください。

1 電子書籍で紙の本はどうなるか

よく「電子書籍が普及したら紙の本は無くなる」と得意げにいう人がいますが、無くなりません(キッパリ)。電子書籍は読むのにデバイスが必要なのです。専用リーダーかスマホ、またはタブレットなどがないと読めません。実はここの敷居が非常に高い。日本でのスマホの普及率は40%を超えたくらいだと思いますが、東京の電車内を見てください。おそらく70%以上がスマホです。逆に言うと地方はまだ多数派はガラケーで、永遠にスマホに移行しない、パソコンも使わないという方が多いはずなんです。携帯がガラケーでパソコンもないのにブックリーダー買う人はかなり稀少でしょう。
こういう方は永遠に電子書籍は買わないというか買えないわけです。この方達の読書率は高いとは言えませんが、それでも紙の本から電子書籍に移行しないので、紙の本の存在価値は永遠にあります。無くなることはないです。
紙の本の質感が電子にはないから残る、という趣味的な話の前に、物理的要因で紙の本の需要は減り続けながらもずっとあると思います。

2 電子書籍の普及で出版社はどうなるか

電子書籍と関係無く、出版社の将来は厳しいです。もちろんその中でも工夫を凝らして高収益を保つ出版社はあると思いますが、全体的には相当に厳しい。これは従来の日本の出版社が「再販制度」に守られていて、そこから脱却できないことにあると私は思います。知らない方のために簡単に言うと、本とか煙草とか音楽CD以外の商品は販売店が仕入れたあとはいくらで売ろうが販売店の勝手であり、メーカーが「いくら以下では売るな」「値引きするな」と言おうモノなら公正取引委員会にばっさりやられます。以下Wikiより

saihan

ところが書籍は、日本では売れないからといって店頭で値引きが出来ない。これは音楽も同じで世界でも音楽ソフトに再販制度があるのは日本だけです。それどころか売れないと、岩波書店のように買い取りになっている出版社以外の本は、本屋は取り次ぎを通して返本ができます。一般の小売店が「商品が売れないから戻す」といったら断られますよね?

昔はこれで良かったのですが、現在はAmazonで古本が1円で物凄く大量に売られています。出版されて半年もたつと中古がネットで買えます。1円で綺麗な中古が買えるのに1300円の新品買うのはかなりの変わり者。さらに問題は出版社が電子書籍も新品の価格に合わせて同等か、少し安い程度に設定していることです。関連エントリー

新品1300円 電子版1200円 中古1円(送料250円で251円)

これでは、電子版買うのは私みたいに整理が苦手か、すぐ読みたい変わり者だけです。中古買った方が圧倒的に安いんだもん。ところがアメリカでは再販制度がないわけですから、発刊されたら最初は定価でもどんどん値段が下がる。数年後には12ドルの本が数ドルとかになります。だから米国版のAmazonには中古のマーケットはほとんどありません。中古買うくらいなら新品を買う。電子版も新品に合わせて安くなっています。

ところが日本の出版社はネットから一番遠いところにある。経営者も爺様ばっかり。しかも取り次ぎや書店との関係がもうズブズブになっていて、再販制度がなくなったら即倒産のところも多いでしょう。いまさら再販制度を止めようなんてことにはなりそうにない。中古のマーケットは今後もどんどん大きくなり、出版業界は数年のサイクルでゆっくり死んでいくと思います。いまでも読みたい新刊が出ても数ヶ月待てば中古が一杯出るからと待ってる人はたくさんいます。

で、出版社の経営基盤はどんどん悪化しているから、「絶対に売れる」本しか出さなくなる。新人を開拓するより必ず売れる本だけ出そうとする。音楽と同じ事になります。「××再結成」「××ベストアルバム」と同じ路線です。これではマーケットは縮んでいきます。

3 無名の新人がセルフパブリッシングで金持ちになれるか

そうなってくると、新人は出版社から紙の本を出すことより、KindleやiBooksなどのセルフパブリッシングで本を出そうと考えます。ではそれでベストセラーが出せるのでしょうか。結論から言うと、普通に発刊するだけなら宝くじ程度の確率では無いかと思います。というより「情報発信の能力」があってはじめてそこそこ売れるようになる、というほうがいいかも。

紙の本には、電子書籍と違う、ものすごい利点がひとつあります。それは
「本屋の店先に並ぶので、手にとって見てもらえる」ということです。

電子書籍を買う人は、多くの場合、本という考え方に加えて、「アプリケーション」としての見方をしていることを忘れてはいけません。あなたがPCソフトやゲームソフトを買うときには、必ず「いま、売れているのを買おう」という心理が働くはずです。売れてないアプリケーションは誰も買わない。
そうすると必ず見るのはランキングです。ランキング上位に出ると非常に売れるけれど、下位に沈むと全く売れなくなる。Amazonで紙の本はロングテールで売れる(本屋ではほとんど売れないレア系の本が検索されて売れる)といわれますが、皮肉なことに電子書籍では真逆になっているわけです。実際、AmazonのKindle総合ランキングで2位まであがったわたしの本も、10位以内のときと50位以下では1日に売れる冊数が何百倍も違いました。
想像してください。電子書籍を「語句検索」して探す場合もあると思いますが、たとえば「インド」とか検索して何冊か出てきたとしても、評価が全く無しの無名の人のはほとんど買わないでしょう。しかしこれが紙の本なら、本屋に行って旅行コーナーで「インド」に関する数冊を手にとってぱらぱらめくって買うという行動が生じます。つまり

 本屋では無名の人が書いた本と、著名な本が横に並んで対等に販売されている

ということがあるわけです。電子書籍では残念ながらこれがない。ゲームソフトも大作のシリーズしか売れないのですが、これと同じ事が起きています。そこそこ知名度が無いとセルフパブリッシングで出版しても自分と友人しか買わないということです。電子書籍で成功している漫画家さんたちは、みなさんブログやソーシャルを使って情報発信を綿密に行っています。だから作品が浸透する。

よく、Amazonのアメリカではセルフパブリッシングで大金持ちになった人がいるという事を言う人がいます。が、この人たちだって全く無名だったのがユーザーに検索で掘り出されて爆発的に売れたわけじゃないと思います。全くの想像ですが、かなりのインフルエンサーが「この本は面白い」とブログで書いたりしたんじゃないでしょうか。
わたしはインフルエンサーとしてはまだまだたいしたことないですが、それでも先週のブログで「みつをメーカー」を紹介して、一万人くらいがエントリーを読んでくれました。それだけが原因ではもちろんありませんが、さっき見たら順位が14位→1位になってました。

みつを

以前にも音声入力アプリをブログで紹介したときにかなりバズりまして、圏外から一気に1位になった事がありました。これを見ても「電子書籍はアプリケーションのひとつであり、ネット上でバズると影響がでかい」ということは間違いないと思います。無名の人が書いた本が売れるためにはここが肝ですが、ステマだとすぐにわかるのがネットの怖さなので、意図してどうのこうのできるもんじゃございません。
よって、電子書籍が売れる必須条件は「そもそも有名人の書いたものか」「ネットで頑張って有名になった作家さんか」「インフルエンサーが推奨して、それによってバズったか」という要素が必要になってくると思います。

仲間やマルチの子ネズミに買わせて順位を上げてという方法もありますが、リアルの本屋と違って、電子書籍はもちろん、紙の本でもネットから買う場合は「評価」が付きます。街の本屋ではこれがないから判断力が無くても物凄い露出の車内広告見て買う人が出るわけですが、ネットだとこんな感じになるのでヤラセは効かないのです。
2

情報商材をマルチ形式でという電子書籍は評価欄が炎上しますので、公式の販売スタンドには向きませんなぁ〜しかも内容がない情報商材を高値で売るというビジネスモデルには、電子書籍のスタンドは向いてないと思われます。情報商材は「電子書籍などを買わないレベルの人」が対象だと思いますよ。

話は戻るが、こういう話をした友人は紙の世界にずっといた人である。話が終わったらぽんと膝を叩いて

「わかった。自分はずっと紙の世界にいたから、頭が切り換えられない。電子書籍は紙の世界とは全く違うものだと思えばいいんだね」と言いました。
そのとおり、アプリケーションのひとつと思っていただければすっきりなのでした。

この間、対談した村上福之君のこの本。ぶっちゃけわたしのKindle本の数倍売れております。価格は十数倍ですぜ、旦那・・

(次回は、6月7日掲載予定)

永江一石のITマーケティング日記」2013年3月25日よりhttps://www.landerblue.co.jp/blog/?p=6114


永江一石

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