再脚光を浴びる伝説の埼玉disマンガ
舞台は架空の日本。埼玉県は、とにかく局地的に時代遅れの田舎で、近年まで明かりはランプや蝋燭。電気も通ったばかりで、テレビを見るために村の庄屋に人が集まるような、一昔前の日本の様相であった。そして、東京に行くには通行手形を持って関所を越えなければならず、例え東京に行けたとしても激しい差別の対象となり、都民の利用する施設に行けば、「埼玉狩り」と称して、警備員から追い出される始末である。それでも埼玉県民は東京都に憧れ、死ぬまでに一度でも東京見物ができるなら、それは夢のような出来事として語られるのであった。
そんな東京都で名門と呼ばれる白鵬堂学院に転校してきた麻美麗。海外からの帰国子女で、女性と見紛うほどの美少年。その美貌は女生徒に限らず男子生徒まで魅了するほどである。転校初日、学園内を案内された麻美は、学内における埼玉県民への激しい差別を目の当たりにする。周囲には気づかれていないが、麗本人も埼玉の生まれである。海外にいたために知らなかったこととはいえ、そのあまりの卑劣さに怒りを覚えるのだった。
少女コミック系ギャグ漫画の金字塔、「パタリロ!」の魔夜峰央著。連載当時、自身が住んでいた埼玉を強烈に揶揄した異彩の革命ストーリー。
みんなの感想
◆一周回って笑える酷さ
埼玉県在住なのですが、ちょっとした誹謗中傷のレベルじゃなくて、一周回ってまるで異次元の話で、ここまで滅茶苦茶に描かれるとむしろ面白くて、作者自身も当時は埼玉にお住まいだったということで、きっとその笑いに持っていくまでが一つの仕掛けでわかって描いているんだろうなと思いました。さらに作中では茨城も酷い扱いになっており、これは流石に大丈夫か?と、ちょっと作者への批判を心配する作品です。
◆ギャグ設定だがストーリーは熱い
極端に誇張された埼玉の田舎描写や、まるで戦後の日本のような馬鹿馬鹿しい程の貧困設定、キャラクターたちの文化レベルに天地ほどの格差がある世界観など、強烈なギャグ設定が目を引きがちだが、東京都民という一部の特権階級の体に染み付いてしまっている差別者の傲慢と、埼玉県民の被差別者としての卑屈さという忌まわしい因習を断ち切ろうと奮闘する少年の立身ストーリーが物語の根幹である。作者が連載中に埼玉県外に移り住んでしまったため、これではただの埼玉叩きになってしまうから、と自ら連載を中止した未完の名作である。