キング・オブ・カルトここに見参!!
聖マッスルは、カルト漫画の貴公子こと『ふくしま政美(画)』と原作「宮崎惇」のコンビによる作品。本作は1976年から1977年まで『週刊少年マガジン』で連載された少年漫画です。本来実績ない作家の場合、連載する前に数回の読み切りを行うのがそれまでの週刊少年マガジンの慣例でしたが、破格の扱いでいきなり本誌連載を勝ち取ります。
ふくしま政美の書き込みにも力が入り、カラーページの人間城(人間の体で作られた城)など、陰鬱さと迫力が「ふくしま政美」の確かな画力が伝えています。その後、場面が変わり一面の花畑に横たわる全裸の男が一人。
男は目覚めると花畑の中でいきなりポージング(ボーディビルで筋肉を見せる決めポーズ)を決め、一通り複数のポージングを終えると、唐突に「おれは・・・何者なんだ?名まえは?」と本作の表紙絵のようなポーズを決めながら暴れ狂います。そして残念なことに作品が打ち切られる最後まで、自分が何者で名まえは、なんなのかわからないまま終了してしまいます。
主人公の聖マッスルは、各地でいわゆる「悪者」を倒し、人びとを幸せにする救世主的な存在として描かれています。どことなく「北斗の拳」を思いおこさせますが、本作は北斗の拳の連載から7年も前の作品です。一つ「北斗の拳」と決定的に違うことは、主人公のケンシロウは、怒りにより上半身の服を破ったとしても戦いの後、しっかりと上着を着なおす紳士ですが、この聖マッスルは、いつだって全裸で、下半身もむきだしです。そんな自由奔放な作品でしたが、いよいよ転機が訪れます。
ある町の権力者を打倒し人々を悪政から解放した、全裸の「聖マッスル」の前に、少女が歩み寄りスカーフのような布を手渡します。ああ、さすがにいよいよ腰に布を巻くのかと思われたその時、救世主「聖マッスル」は、少女にニコっと微笑むと、もらった布をキュッと、首に巻き始めるのです。そう、ついに全裸ではなくなってしまいました!
しかし一糸まとわぬ上半身と下半身、そして首にスカーフといった姿はどう考えても変態そのものです。果たしてこんなコスチュームの主人公はこれまで存在したでしょうか。そして憎たらしいことに自信満々で仁王立ちをして、いい笑顔でスカーフを巻き、街の人々になにか良いことを言い始めます。ちなみに町の人々も全裸なことには誰も突っ込みをいれません。1992年に週刊少年ジャンプで連載されカルト的人気を得た「変態仮面」よりも凄味があるコスチュームです。
ちなみにこの首に巻いたハンカチだかスカーフは、後に聖マッスルの命を救ってくれる大事なアイテムとなります。
巨人王が統治する街のコロシアムにて、身の丈3メートルはあろうかという国一番の戦士の蹴り(見開きページの半分以上をつかった大迫力な蹴り)をまともに喰らい地に叩き落とされる聖マッスル。しかし頭をさすりながら起きると、彼はこう述べるのです「ハンカチを、まいていなかったら 完全に気をうしなうところだった」と・・・。ハンカチの守備力とても高いです。甲冑並です。
なお作者の「ふくしま政美」は、この作品で漫画賞を狙っていたということでしたが、残念なことに生まれた時代が少し早すぎたかもしれません。そして破格の扱いを受け連載が始まった同作品ですが、ふくしま本人の談によると「人気は最下位」で気が付けば一人全裸で暴れていた聖マッスルも服を着てしまい、軌道修正を余儀なくされていったそうです。
しかし、この作品は「読者層とのミスマッチ」がなければもっと早く評価されていたのではないかと常々思います。例えば見開きを使って「右ページに右尻、左ページに左尻」2ページの50%以上をマッチョの尻が占拠し、さらに下半身丸出しの何かがぶら下がっている股下から風景を見せるという大胆な構図は、週刊少年マガジンのそれではなく、思わずアッーと言ってしまいそうな何かを感じます。それこそ連載誌が違えばもっと早くに評価された非常においしい作品であったような気がします。
なお、この作品打ち切り後に「ふくしま政美」は「超劇画 聖徳太子」の連載を開始します。