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芋虫【電子コミック】

芋虫【電子コミック】

著者 ページ数 クチコミ評判
丸尾 末広 、江戸川 乱歩 (著) 134ページ ★★★★☆

江戸川乱歩原作のエログロナンセンスがコミカライズ化

 須永時子は夫の上官である鷲尾少将の元を訪れていた。鷲尾は言う。あなたは立派だと、この世の美談だと。夫である須永中尉は戦争で負傷、四肢を失い、顔面も焼けただれ、口も利けずに、耳も聞こえない、ただ生きている事以外は妻である時子の世話がなければ生きていけない体になっていた。さいわい、数々の勲功を立てていた功績により、日々の暮らしを支える家計は国からの援助で賄われているものの、その様はまさに芋虫のようであった。そんな夫を見捨てずに、献身を続ける時子は世間から見れば正に聖人君子、戦争の悲惨さの中に生まれた美談以外の何物でもない。
 しかし、それは時子の表向きの顔。自宅では自分がいなければ何もできない夫を見下して、自分が優位に立つ事で悦に入り、身動きできない夫をまるで自分の性処理道具のように貪って、夜な夜な興奮を満たしている醜い本性を持っているのだった。
 推理小説家、江戸川乱歩原作。乱歩の得意とするもう一つのジャンル、エロティックかつグロテスクな猟奇と残虐性から、発表当時は発禁となった問題作を鬼才・丸尾末広がコミカライズ。

みんなの感想

◆退廃的で、歪な描写

 江戸川乱歩本人が得意とすると公言していた、エログロナンセンスの代表作と言っていいだろう。貞淑で健気な妻を演じる一方で「芋虫」となった夫に対して、自分と同じように人間として扱う気はなく、まるでペットのような感覚で世話をして、ただただ欲望を満たす時子の様子には思わず顔をしかめる。物語に始終展開される陰鬱さや、まるで陶器のように生命力を感じさせない冷たい印象を持つ登場人物たち。退廃的でおぞましい世界観が見事に描写されている作品だ。

◆もはやホラー作品

 登場人物が全体的に怖い印象です。冒頭の会話の際の妙な笑顔の少将や、冷たい時子の視線、そして体を揺すったり、頭を打ち付けて自己表現をする須永中尉の狂人的な行動や表情に、背筋がゾッとする感覚を覚えました。軍人としての優秀な頭脳や気概は残っているにも関わらず、見た目だけでこんなにも人間としての尊厳を削がれ、まるで動物のように見えてしまう恐ろしさ。人間として戦死してしまった人と、哀れな須永中尉を比べると果たしてどちらが幸せなのか?と考えさせられる内容でした。



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