女性視点の冒険小説!「芙蓉千里」
「大陸一の売れっ子女郎になる」という大志を抱いて日本から哈爾濱(ハルピン)に渡ってきたフミは妓楼・酔芙蓉(すいふよう)の下働きになります。やがて天性の愛嬌と舞の才能を買われて、芸妓の道を歩むことに。ふとしたきっかけで出会った日本人の男、山村に励まされながらも、ひたすら角兵衛獅子を舞い続けます。同僚の美少女タエが美しく成長していく姿や、姉女郎たちの悲しい運命を見つめ続けて成長したフミは、やがて彼女の心の支えが山村の存在だと自覚することになります。
『芙蓉千里』は2012年度にセンス・オブ・ジェンダー賞大賞を受賞した須賀しのぶ著の作品です。ジェンダーと言っても激しい性的描写はなく、一般文学として読みやすい作品となっています。
見どころはなんといってもフミのたくましい生き様でしょう。12歳で哈爾濱へ売られてきた少女が、自分の武器は舞であると自覚し、必死に技を磨いていく様子は迫力を感じます。また、人生の転換期とも言える場面で現れる山村とフミの関係も、回を重ねるごとに深くなっていき目が離せません。やがて店でも有名な舞妓となったフミは、いままで何度か街で出会い、励ましてもらった山村という男と親しくなります。同じころ、なじみの客に紹介された黒谷という男がフミの舞に感動し、フミの旦那となります。二人の男の間で気持ちが揺れるフミ。彼女が選ぶのは?
明治初期の激しい時代の流れに翻弄されるフミの運命は激しく変化しますが、彼女がそれに負けまいとして必死に舞い、時には激しく啖呵を切る姿は、タイトルの「芙蓉」に似た鮮やかさを感じさせてくれます。
フミが成長していく過程を彼女の視点で読み進めるため、非常にスピード感のある物語になっています。また彼女の人生は決して幸せなものではないのですが、本人が明るい性格なのであまり悲惨さを感じることなく読み進めることが出来ます。この小説は単行本が3冊、文庫が5冊で完結となっています。シリーズ一連を通して読むと、波乱万丈なフミの人生を冒険小説のように楽しむことが出来ます。女性視点の冒険小説、これがこの小説の見どころでしょう。