2010年下半期第144回芥川賞受賞の私小説
中編小説「苦役列車」は、2010年に文芸誌「新潮」に発表された作家西村賢太の小説作品です。2010年下半期の第144回芥川龍之介賞を受賞し、授賞式で「風俗に行こうと思ってた」と言う発言も話題を集めました。
「友ナシ、金ナシ、女ナシ。この愛すべき、ろくでナシ」と言うキャッチコピーで2012年には映画化されていますが、映画も日本アカデミー賞やキネ旬ベストテンなど、数々の賞を受賞しています。
昭和後期の日本を舞台に、19歳だった主人公北町貫多の劣等感と怒りに満ちた日々が綴られています。作者の西村賢太自身、波瀾万丈な人生を送っている私小説家で、主人公の貫多に自分の経験が反映されています。
苦役列車と言うタイトルから連想させる通り、主人公の人生は苦難に満ちたもので、単純労働で日銭を稼ぐ毎日を過ごしています。
現代を過ごす明るく満ち足りた若者像とはあまりにもかけ離れていますが、作者のユニークなキャラクターも人気を集め作品も幅広い年齢層から高く評価されています。古風な文体にも関わらず、スイスイ読みやすいとの意見も少なくありません。苦役列車はダメな人間、ダメな男を書く作品だけに賛否両論分かれるところですが、好きな方はディープにはまる・・・そんな魅力をたたえています。
作中には常に「不条理に対する怒り」があり、作家本人の「穏やかな風貌にはそぐわない激しさ」の出処がどこにあるのかを明らかのするものでもあります。しかし不条理に対する怒りは使い古されている手法であることに厳しい批評が集まることもあり、実際に第144回芥川賞を受賞したときの選考委員からは、その点を指摘する声も上がりました。
ある意味「私小説家」が直面する問題でもあり、「蟹工船」が若者に読み返される時代になっていたことも、「苦役列車」が支持された要因となっています。時代が少々ずれていたならば、ここまでの指示を得たかは甚だ疑問が残ると見る向きもあります。
若者の軌道を逸した行動が描かれていることから「限りなく透明に近いブルー」と対比されることもありますが、「不条理」という点で、現代を生きる若者の共感を得るものとなっています。