人間味あふれるやくざが魅力の日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作品
『茉莉花(サンパギータ)』は、川中大樹の作品で日本ミステリー文学賞で新人賞を受賞した作品です。主人公は横浜の暴力団の組長ですが、彼の率いる暴力団は裏情報の取引によって生計を立ててはいるものの、義理や人情に溢れる清く正しいやくざであるという点が、一般的なやくざの描写とは異なった、この作品特有の設定となっています。主人公を始め、主人公の家族もやくざ仲間も、「やさしくていい人」という設定が徹底されているため、読者は登場人物たちに好感を持ちつつ物語を読み進めることができます。
この物語の見どころは、日本とフィリピンという二つの異なる国で起こった互いに全く関係のなさそうな事件が、実際は裏で複雑に絡み合っているという点です。主人公は、幼馴染でゲーム屋を営んでいた友人武雄が突然何者かに殺害された事件を長年追っていました。そしてひょんなことから、自宅にホームステイしているフィリピン人のシェリーが両親を火事で亡くした事件を知り、その事件の中に自分の追っている事件との共通点を見つけ出すのです。
二つの事件の全貌が明らかになっていくスリルと、その裏に隠された壮大な秘密へと迫っていく爽快感、悪の組織に立ち向かうアクションシーンなど、注目すべき点や楽しみ方が人それぞれ存在する、魅力ある作品です。