2014年映画化の直木賞受賞時代小説
第146回直木賞受賞作品「蜩ノ記」の著者葉室麟は、第29回歴史文学賞、第14回松本清張賞などを受賞した実力派作家です。しかし直木賞に関しては2009年から4回に渡り候補となったもののその都度逃し、2012年の第146回にしてようやくこの「蜩ノ記」にて受賞することがかないました。
選考委員から藤沢周平を彷彿させる正攻法歴史小説と評され、全会一致での受賞であったことを告げられています。教養高い手法には定評があります。
54才から文壇デビューとなり、かなり遅咲きの作家としても知られています。「蜩ノ記」は、豊後羽根藩(架空)にて場内で刀を抜くという不祥事をおこし、切腹だけはなんとかまぬがれた檀野庄三郎が幽閉されている戸田秋谷の身の回りの世話を仰せつかったことから始まります。
戸田は藩主の側室との不義密通の罪で10年後に切腹を命ぜられている人物です。しかし接していくうちに、檀野からみた戸田には気高さや清廉さ、壮絶な覚悟があり、とても不義密通で罰せられる人物には見えません。
無実を確信した檀野は調べてゆくうちに、大きな疑惑にたどり着きます。期限付きの切腹を命じられ、奥山にてその日まで清く気高く生きる戸田の命の燃える音と「蜩の声」を重ねた、秀逸な時代小説です。