直木賞・山本周五郎賞ダブル受賞作
「邂逅の森」は日露戦争の時代を生きたマタギの家に生まれた富治という男の一生を描いた物語です。この「邂逅の森」は直木賞と山本周五郎賞のダブル受賞作なだけあり、深い表現力と生々しささえ感じられる細かい描写、そして作品に込められた熱い想いが感じられ、思わず息を呑む一作と言えます。
マタギという現代では見ない職業であることや地方の言葉が多用されている為、読み始めの頃は抵抗を覚えますが次第に慣れて一気に読むことができます。いや、一気に読ませられるという表現が正しいほど、グイグイと作品内に引き込んでいきます。
人間という生物も動物であり過酷な自然の中で集団で生きるものであるということ、身分に抗おうとしてもがく様やマタギとしての生き様、それを読者の心に深く刻みこむように言葉を連ねる表現技法にも感嘆の声を上げざるを得ません。決して優しい本ではなく、比較的暴力的で肉欲的でしょう。当時の時代背景から生きることの困難、人権の問題など非常に心が苦しくなるのです。
しかし、同時にこれが人間であると再認識させられるのです。「邂逅の森」は、まるで自分自身が主人公である富治となり、マタギとして山に生き山の神・巨大熊に向かう、そして受ける怪我の痛み、妻への情、登場人物の追体験ができる数少ない1冊です。