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釣りキチ三平

矢口高雄の釣りキチ三平(電子コミック)レビュー

釣りキチ三平 講談社出版文化賞・児童まんが部門受賞【電子コミック】

著者 ページ数 クチコミ評判
矢口高雄 208ページ ★★★★

釣りを知らずとも心打たれる釣り漫画

『釣りキチ三平』は『矢口高雄』による作品で、1973年から『週刊少年マガジン』または月刊少年マガジン(こちらは主に短編)にて連載された人気釣り漫画です。また1980年から1982年にかけてフジテレビ系列でTVアニメも放送されました。2000年代に入っても作品はフィーチャーされ2009年には初の実写映画が公開されました。

釣りキチ三平で描かれる釣りシーンはなかなか惹かれるものがありますが、実はそこへ行くまでのストーリーこそがこの漫画の真髄と言えます。自然の中で、三平が目当ての魚をいかに釣り上げるか、の工夫や思案は見応えがありますし、三平を取り巻く人々が、苦難をかえってよろこぶ三平の底抜けの明るさと、大らかさに惹かれていく場面にも感動させられます。

また、釣り竿職人の祖父の含蓄ある言葉、時に兄のように、父のように三平をサポートする魚紳のまなざし、三平にほのかな恋心を抱くユリッペとの微笑ましいやりとり、など、周囲の人たちとの関係も丁寧に描かれ、釣りをテーマとした人間ドラマを堪能することができます。矢口高雄さんは自然を描かせると天下一品と言われていますが、実に丁寧に、特に日本の河川や森に対する尊敬や愛着がその画面からあふれ出すようなタッチで描かれた大自然の中で、決して恵まれた境遇にいるとはいえない三平がその孤独や寂しさを心の奥に閉じ込めて、天真爛漫に釣りに没頭する姿こそが、この作品の最大の見どころと申せるのではないでしょうか。

きっとあの葉の下には、きっとあの岩の裏には、ヤマカガシやカジカが生き生きと棲息しているのだろうと思わせる日本の自然の息吹を感じながら、三平を心から応援したくなる、そんな作品です。



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