劇団ひとりの力作 陰日向に咲く
お笑い芸人である劇団ひとりの小説、ということで読む前には意識していないつもりでも頭のどこかに「芸能人の戯れ」ではないか、という感覚がありました。
その無意識の意識も踏まえて、この「陰日向に咲く」はかなり面白い内容でした。短編の体をとり、幾人かの奇異な、でもどこか現実臭をまとった人生のパーツを切り取りながらそれらのパーツが実はもう少し大きな絵画を作り出すパズルのピースだった、という展開。展開そのものは今まで見たことがなかった、という類のものではないのですが「陰日向に咲く」のそれは前述したように「お笑い芸人が書いた」独特な感性も垣間見えました。
劇団ひとりさんはコントテイストの、役に入り込むタイプの芸をされる方なのですが「陰日向に咲く」に出てくるそれぞれの主人公、実はすべて彼が演じるコントのキャラクターなんじゃないか、と思わせる節があります。小説として読みながらどこか大衆演劇、しかも喜劇のいくつものシーンを見ている感覚にとらわれ、どの登場人物も普通じゃないのにおそらく「本人の頭の中ではそれこそが普通」なんだろうな、と思える雰囲気で、それは役に入りきった状態の劇団ひとりさんそのものなんではなかろうか、という気すらしてきました。それが演劇であるから、最後には大団円という名のオチが付き、そこまで見てはじめて連続した一つの舞台となる、そんな小説にも見えます。
ちなみに陰日向に咲くは、映画化もされています。