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電気作家

荻野アンナの電気作家(電気書籍)のレビュー

電気作家(電子書籍)

著者 ページ数 クチコミ評判
荻野アンナ 97ページ ★★★★

東日本大震災での自らの体験を元にした小説

『電気作家』は1991年に『背負い水』で芥川賞を受賞した荻野アンナの作品です。この作品は、東日本大震災にまつわる著者自らの体験を綴った小説であり、震災後の世間のムードや周囲の言葉に呼応して揺れ動く心情を素直に吐露している。
『電気作家』という半ば自嘲気味の表題を掲げ、時にユーモアを交えながら、努めて冷静に物事を捉えようとする姿勢に、彼女の作家としての挟持が伺える。

2011年3月11日、私の作家人生は変わった―――。
かつて電力関連会社のルポタージュに関わったことで、週刊誌から“原発おばさん”とバッシングを受けた「私」。自分は原発事故の共犯者なのか、原子力について書くこと自体が悪なのか……。
“私「は」さんざんな目に遭った、と思っているが、私「に」さんざんな目に遭った、と思っている人もいて、両方を足せばほぼ「現実」になる。”
震災直後の現場に飛び込み、綺麗事では済まない現実を目の当たりにした「私」は、葛藤の中で、自らの使命に立ち向かって行く―――。

賛否両論あるがまだ自粛ムードが色濃かった2012年にこの小説を書き切ったことは評価できる。安易な価値相対主義に逃げず、責任の所在やエネルギー問題の未来と正面から向き合い、文学者としてあるべき姿を示した作品だ。



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