#1000 女王と、語り合って。
あなたの女王との会話が好き。
あなたと、古代メキシコ展。
マスクを被った土偶があった。
マスクは、動物の革ではなく、人間の皮だった。
勇者が、戦う。
勝利した勇者が、生贄になる。
「えっ、敗けたほうじゃなくて」
思わず、突っ込んでしまった。
じゃんけんに勝ったほうが、支払いをする男気ジャンケンの仕組みだった。
あなたは、教えてくれた。
まるで、そこにいたかのように。
勝利した勇者は、生贄になる前に1年間、美食とハーレム生活を送る。
そして、1年後、生贄になって、生きたままの心臓を取り出される。
顔の皮を剥がれ、次の勇者が、それを被る。
ハーレム生活をするのは、高貴な女性が、勇者の遺伝子を手に入れるため。
そうして、古代文明は、長く続いた。
あなたが見てきたかのように話せるのは、前世で勇者だったからに違いない。
展示のメインイベントは、最近発見された女王のミイラ。
女王は、仮面を被っていた。
古代メキシコの土偶や仮面は、みな写実的だった。
アジアからアラスカ伝いに渡った民族なので、日本人にも、似ていた。
周りの来館者は、「こういう人いるよね」「これ、○○さんに似てない」と口々に語っていた。
そんな中で。
あなたは、黙っていた。
黙っていたのでは、なかった。
女王と、語り合っていた。
普通、ミイラは、まっすぐ天井を見ている。
女王の仮面は、あなたの方を見ていた。
仮面には、瞳が描かれていた。
その大きな瞳は、確実に、あなたを見ていた。
見つめ合っている。
語り合っている。
女王は、あなたを待っていた。
あなたとの、再会を。
あなたも、気づいた。
あなたは、やはり、勇者だった。
私は、あなたと女王のやり取りを、聞いていた。