#1001 桜の下には、恋人が。
あなたの見えないものを見る所が好き。
あなたと、日本画の展覧会。
桜専門の美術館。
階段も、桜の木でできている。
毎年、新作の入賞作が展示される。
今年の作品は、特徴があった。
これまでの作品は、桜と自然物の組み合わせが多かった。
桜と月。桜と川。桜と山。
生き物が入っても、桜と鳥。
今年は、桜と人の組み合わせが、印象的だった。
あなたが、1枚の絵の前で止まった。
大きな川添いの土手の桜。
桜並木が、S字型にうねっている。
満開の桜の隙間に、かすかに道が見える。
空の上から、雲の隙間に、地上が見えるような構図。
大きな川は、かつて洪水が頻発した。
洪水対策のために、分水を作った。
そして、その川沿いに、土手を作った。
土手を固めるために、桜を植えた。
桜の根で、固めるためではなかった。
桜を見に来る人の足で、土手を固めた。
桜の樹の下には、死体が埋まっているというのは。
洪水対策で苦労した昔の人の努力が埋まっているということ。
よく見ると、満開の桜の隙間に、人が垣間見える。
あ、ここにも、二人。
ここにも、二人。
ここにも、二人。
柴犬の散歩をしている男性がいた。
飼い主さんは、スマホを見ている。
柴犬は、飼い主さんと逆の方向を見ている。
柴犬の目線の先は、桜の花で、隠れている。
あなたは、見ていた。
柴犬の目線の先に、柴犬を連れた女性がいるのを。
彼は、「桜が、キレイだよ」とメールしていた。
彼女は、「一緒に、見たい」と返事をしていた。
あなたは、桜で隠された恋人たちを見つめていた。