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#1002 瞳の中に、霊が。

あなたの追体験が好き。
あなたと、怪談を聴きに行く。
怖がりなのに、怪談は好き。
怖がりなのは、想像力が豊かだから。
怪談を聴いた後、楽屋に挨拶に行く。
「今日は、すぐ移動なので、お時間がなくてすみません」
と、感じのいいマネージャーさんが暖簾をあけてくれる。
語り部さんが、笑顔で、迎えてくれる。
オドロオドロしい話とは、ギャップがあるのが、魅力的。
確かに、怪談だけど、どこか温かい。
あなたは、今日、一番怖かった話をする。
語り部さんは、真剣にその話を聴く。
「あの話には、続きがあるんですよ」
語り部さんは、その後、もう一度、その場所に行ったエピソードを語ってくれた。
にこやかな語り部さんの顔は、再び怪談モードになっていた。
語り部さんの視線の先には、はっきりと、霊を見ていた。
霊を見るおののきの表情をしていた。
驚いたことに。
語り部さんと同じ表情を、あなたがしていた。
あなたもまた、語り部さんと同じように、そこに霊を見ていた。
あなたは、観客ではない。
どんな時でも。
あなたは、感情移入する。
話し手に、なりきる。
霊を見た話し手を、見るのではない。
霊を見た話し手に、なりきる。
又聞きではない。
追体験している。
「昔の私がした話を、完璧に覚えてますね」
語り部が、驚嘆する。
私も、いつも驚いている。
もはや、病的と言っていい。
あなたは、記憶しているのではない。
もちろん、記憶しようとすらしていない。
体験したから、忘れられなくなっているだけだ。
あなたの目が、語り部と同じ、おののきの目になっていた。



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