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#1005 歩いている、振りで。

あなたの足音のない歩き方が好き。
あなたと美術館。
平日の美術館は、静かだった。
企画展が、まだ始まったばかり。
雨の日。
テレビで紹介されて、後半は、入場制限になりそう。
床が、木製でできている。
足音が、響く。
貸切状態なので、ますます、響く。
気付いた。
さっきから聴こえている足音。
全部、私の足音だった。
ヒールの踵が、鳴っている。
あなたは。
あなたの靴底も、ゴムではない。
なのに。
あなたは、足音がしない。
そういえば。
前に、京都の料亭で、畳のお部屋に入った時。
大正時代からの由緒ある建物だった。
町家の急階段が、ミシミシいった。
あなたは、鳴らなかった。
畳も、ミシミシいった。
私だけだった。
あなたは、鳴らなかった。
あの時と、同じ。
足音が鳴らないようにしてみた。
それでも、消えなかった。
どうしたら、あなたみたいに、足音を消せるのだろう。
ひょっとしたら、あなたは。
きっと、そうに違いない。
足音が鳴らないのではない。
あなたは、浮いているのだ。
床に足をつけている振りを、しているだけなのだ。
納得がいった。
あなたが、私の手をとった。
その時、私の足音が、消えた。



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